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ブルックナーの演奏回数が今でも多くて人気があるのは交響曲第4番と、第7番から第9番までで、フルトヴェングラーの録音でも第7番と第8番の録音が幸いにもいくつか残っている。文献に記載されて、かつて存在していたと思われるにもかかわらず、現存しているか不明な録音がある。『フルトヴェングラー―音楽と政治』(クルト・リース著 八木 浩・芦津 丈夫訳 みすず書房)には、フルトヴェングラーが1941年にスキーで転倒して、二度と指揮できなくなると思われるほどの大けがをしたとき、ウィーンからラジオ放送されたブルックナーの交響曲第7番を全曲聴いたときの様子が書かれている。当時、テープ録音されたばかりだったというそれらしき録音はLPやCDなどでは出ていないし、あらゆるディスコグラフィーにも記載されていない。これはベルリンでのライブが、かつてマグネットフォンで全曲録音されていたことを仄めかしているのであろうか。

ところで、戦後、ベルリンフィルが練習場所を失って使っていたゲマインデハウスでのラジオ放送向けに録音された交響曲第7番と第8番は、演奏の素晴らしさと録音の良さで名高い。特に、戦後のベルリンフィルとのセッション録音が少ないため、そういう意味でも貴重である。これらの録音は、エレクトローラ社によって、ブライトクランク・ステレオとして、疑似ステレオ化されて「ブルックナーにふさわしい」と高く評価するファンもいる。日本では、東芝EMIから、4枚組LPセットAA-9131・Dとして出た。特に交響曲第7番は音の鮮度が落ちずに、自然に音楽が楽しめてなかなか良いと思う。交響曲第8番の音質は、若干、第7番よりも録音状態が落ちる。それぞれの楽章が、8つの面に一つずつ刻まれている。余計なエコーは付加されていないようなので、「加工された音」のようには聞こえない。

一方で、オリジナルのモノラルの方が良いというファンもいる。確かに、小さなゲマインドハウスの部屋では、疑似ステレオ化された音のような広がりのある響きは出ていなかったであろう。交響曲第7番で、元々のモノラルの音で出たレコードの中では、2枚組LP、仏HMV FALP 852/FALPS 853は音が良いことで、特に人気がある。カタログ番号は、2枚目になぜかFALPにSがくっついて FALPSになっている。第3面に第3楽章と第4楽章が入っていて、第4面には何も入っていない。日AA-9131・Dと比べると、確かに、オリジナルの生々しさがあるので、人気があるのも頷ける。フォルテでもオーケストラの音が分離良く余裕を持って響くのは、流石と言える。

ブルックナーの交響曲の中で、楽譜の校訂者が誰かという問題は、交響曲第8番においては大きいかもしれない。なぜなら、ブルックナーの交響曲の中で特に人気のある作品であるだけではなく、ブルックナー自身がこの交響曲に改訂を行ったのについて、ハースとノヴァーク、二人の学者の見解が大きく異なり、曲の長さが変わってしまっているからだ。フルトヴェングラーは、当時、「原典版」と考えられていたハース版を使いながら、自分の音楽になるまで理解した上で、演奏の場面では独自の視点でハース版に手を加えていた。晩年に、ノヴァーク版が出版されることになると、それも研究した。フルトヴェングラーの演奏が説得力を持っている理由の一つは、この作曲家と同じロマン派の影響下に生きた音楽家だったということであろう。フルトヴェングラーほど、ブルックナーの時代の作曲家の視点で作品を理解した指揮者はそれほど多くはない。

交響曲第8番は、1998年にTestamentがSBT 1143でCDを出すまでは、第3楽章と第4楽章の一部で、収録日が1日違いのティタニア・パラストのライブ録音を使った編集テープが使われていた。Testamentの録音は、全曲がゲマインデハウスでの放送録音である。このTestament盤のマスタリングは素晴らしく、音楽の中身を十分に伝えているので、それに満足してEMIのSACDは入手していないが、日TOCE-11012もゲマインデハウスでのテイクのみを使ったマスターで作られた。交響曲第8番を編集したテープは、2つの良いところ取りをしたのであろうが、両方とも大きなミスはないので、別々でも十分に楽しめる。特に、ゲマインデ・ハウスでの録音は、アットホームな雰囲気の中で、この作品を演奏できる喜びに溢れながら演奏しているかのように聞こえる。その後、AuditeがWilhelm Furtwangler - The Complete RIAS Recordings(audite 21.403)という13枚組のCDを出し、Edition Wilhelm Furtwängler – RIAS recordings with the Berlin Philharmonic on 14 LPs(audite 87.101)としてLPを出したが、こちらの方は全曲がティタニア・パラストのライブである。とても丁寧に作られたレコードは音が良いので、もはや、わざわざ古いLPを手に入れる必要はないだろう。交響曲第8番をベルリンフィルの演奏でLPで聴くなら、audite盤がベストである。これらの交響曲第7番と第8番の録音は実に素晴らしく、会場の外の車や飛行機の音まで拾っているほど鮮明だ。独DG LPM-18854としてLPが出た、大戦中に録音された交響曲第9番も放送録音なので、当時としては録音状態が良い。つまり、人気のある最後の交響曲3つが、数少ないベルリンフィルのセッション録音で聴けるということになる。

さらに、交響曲第8番については注目するべき2つのウィーンフィルとの録音が残されている。大戦中の1944年の演奏は、マグネットフォン録音された中でも特に良い録音で、大戦中のとは思えないほどである。英Unicornから出た黒いジャケットに入った紺のレーベル、初期盤の分厚いレコードUNIC-109/110は、巨匠のこの曲のベスト演奏、ベスト録音と思わせるほどの素晴らしい演奏を再現してくれる。ベルリンフィルによる戦後の演奏も、この曲本来が持っている力強さが表現されていて素晴らしいが、このウィーンフィルの大戦中の演奏は、力強いと同時にとても美しい。

1954年、最晩年の演奏は、演奏に使用された楽譜が違っていたために真贋論争が起こった。他の録音がフルトヴェングラーが手を加えたハース版であるのに、この1954年のだけが違うからである。フルトヴェングラーがハース版を全面的に支持していた訳ではなかったことと、「校正前のゲラ刷りによるノヴァーク版」を研究していたことが分かっている。ノヴァークは、ハースの研究を引き継いだ人物で、ノヴァーク版はこの演奏の翌年に出版された。この演奏会のプログラムに楽曲解説を書いているのは、興味深いことにノヴァークである。ウィーンフィル資料室から、当時使用された、演奏された日付とフルトヴェングラーの名前が書かれたパート譜が見つかったことにより、真贋論争になった録音がフルトヴェングラーの演奏であると決定づけられた。(アメリカ・フルトヴェングラー協会ニュースレター第4号)使用楽譜はシュレジンガー社によって1892年に出版された、ヨーゼフ・シャルクとマックス・フォン・オーバーライトナーによる改訂版で、最初のこの曲の出版譜である。センター盤SACD、WFHC-207の解説で、舩木篤也氏が興味深い推測を示している。

「彼はおそらく、第1稿の要素を排除したノヴァーク校訂の第2稿に賛同し、今後これに準拠しようと考えた。だが、1954年の段階では、オーケストラが利用できるパート譜がない。そこで次善策として、ノヴァーク校訂版に一面では「近い」改訂版を用いた。ただし、楽器法等でブルックナーのオリジナルから逸脱するところは、批判全集版および己の信念に従い、これを訂正して使用する――。」

伊Cetra FE-17(2LP)は、最晩年の録音ということもあって、素晴らしい録音で演奏を存分に楽しむことができる。よく聴くと、女声の歌が混入しているのでエアチェックかもしれないが、録音の状態がとても良いので、全く問題が無い。戦時中の録音も素晴らしいが、巨匠最後のこの曲の演奏もまた美しく力強い。Cetra盤は、演奏時間の関係で、第2楽章と第3楽章が面をまたいでいる。

写真:
.屮襯奪ナーの交響曲第7番(1949年放送録音)の決定盤 2枚組LP、仏HMV FALP 852/FALPS 853
▲屮襯奪ナーの交響曲第7番(1951年ライブ録音)の最後の録音 日本コロムビア株式会社 OW-7824
東芝EMIから出たブルックナーの交響曲第7番(1949年放送録音)と第8番(1949年ライブと放送録音の混合)、人口ステレオ4枚組LPセットAA-9131・D
ブルックナーの交響曲第8番(1949年放送録音) TestamentのCD、SBT 1143
ぅ屮襯奪ナーの交響曲第8番(1954年ライブ録音) センター盤SACD WFHC-207
ゥ屮襯奪ナーの交響曲第8番(1954年録音)はウィーンフィルとのノヴァーク版に近い演奏 伊Cetra FE-17(2LP)