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大戦中のマグネットフォン録音で、R. シュトラウスの「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」はドイツの放送局に残っていたテープからレコード化されたが、大戦中とは思えない良い音質である。R. シュトラウスの作品とシュトラウスがとても尊敬したモーツァルトの商業録音を収めたアルバム、LPM-18960に記載されている録音年は、1947年録音のシュトラウス「ドン・ファン」以外すべて間違いで、「フィガロの結婚」序曲は1943年ではなくて1933年、「後宮よりの逃走」序曲は1949年ではなくて1933年、「ティル」は1947年ではなくて1943年、「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」は1943年ではなくて1935~1937年である。

英ユニコーンから初めて世に出たウィーン・フィルとのブルックナーの交響曲第8番も、演奏と録音が素晴らしい。黒いジャケット、厚いレコードの紺レーベルUNIC-109/110は、戦後録音と間違えるかもしれないぐらい素晴らしい。ユニコーンの最高傑作である。白地にオスカー・ココシュカの油絵を使ったジャケットに入った、赤レーベルまたは水色レーベルのUNI-109/110は、紺レーベルのより音質が若干落ちる。起伏の激しい演奏をきちんと溝に刻み切れていないないので、音量が大きくなると響きの余裕がなくなる。このココシュカ・ジャケットには、紺レーベルUNIC-109/110のレコードが入っていることもある。この紺レーベルで聴く限りでは、一連の大戦中録音の中で、最も録音が良いのがユニコーンのブルックナーだと思う。音割れもなく、細部の描写が素晴らしく、会場の空気をも再現する。ベルリンフィルとの戦後の録音もあるが、オーケストラの音そのものに魅力があるウィーンフィルとの録音は演奏と録音で負けてはいない。ユニコーンは、入手が難しかったソ連製メロディアLPを板起こしして、西側諸国の人々に大戦中のフルトヴェングラーの演奏を紹介した功績があるが、ソ連崩壊後はメロディア盤が入手しやすくなったので、その存在価値が薄れた。それでも、メロディアから出ていないブルックナーの交響曲第8番と、メロディアよりも先に出たシベリウスのヴァイオリン協奏曲、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番は「板起こし」ではない音質の良いレコードなので、手に入れる価値がある。

シベリウスのヴァイオリン協奏曲にもUNIC-107とUNI-107がある。私のUNI-107には赤いレーベルが貼られているが、レコード本体にはUNIC-107と刻印されていて、紺レーベルのレコードと同じである。シベリウスのUNIC-107は、本来の黒いジャケットに入っている場合とUNI-107と同じデザインの白いジャケットに入っている場合がある。白いジャケットにはUNI-107と書かれているにもかかわらず、UNIC-107が入っていることがある。ただ、よく見るとジャケットの色合いに違いがある。紺レーベルのUNIC-107が入った白いジャケットの青い文字部分はUNI-107が入った方のジャケットのよりも明るい青である。ブルックナーの交響曲第8番も、ジャケットでどちらのレコードが入っているかが大体分かるが、例外もあるので、どちらが入っているかは分からない。

尚、『フルトヴェングラーを追って』(平林 直哉著 青弓社)によると、ブルックナーのユニコーン盤LPはエリーザベト夫人提供音源によって作られたとのこと。UNICとUNI、どちらが先にプレスされたかは明かではないが、レコードの厚さの変化は、オイルショックが関係しているのかもしれない。

ユニコーンから出たUNI-106、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番もメロディアとは違う音源と考えられる。ハンゼンのカデンツァは、最初はベートーヴェン自身が書いたので始まるが、途中から別の内容に変わる。フルトヴェングラー・センター顧問の桧山浩介氏は、「1988年(昭和63年)に、公開レッスンのために来日したハンゼンに会って話をしたことがある」と、2014年(平成26年)5月に行われたセンターによるレクチャー・コンサートで語った。その時、当日に世界初演されたペッピングの交響曲に対する反応について質問した桧山氏に対して、「フルトヴェングラーとの共演を前に、そんなことを知る余裕がなかった」と答えている。桧山氏が真っ先に聴いたのは、カデンツァについてで、フルトヴェングラーによるサジェスチョンによるものではなく、完全にハンゼン自身のアイディアによるものだったという。それにしても、この演奏で聴くことができるロマンティックなサウンドは、戦時中の演奏とは思えない。『フルトヴェングラーを追って』(平林 直哉著 青弓社)によると、この曲とシベリウスのヴァイオリン協奏曲の2曲については、メロディアよりもユニコーンの方が早くレコード化し、ブルックナーについてはメロディアはレコードを出していない。ユニコーンのブルックナーは、エリーザベト夫人からの提供音源から作られたという。ただ、メロディアよりも先にレコード化された2曲の音源の出所は掴めなかったという。ドイツのどこかの放送局に残っていた音源だろうか。UNI-106は、メロディア盤M10-46067 003に負けないぐらい良い音がする。ただ、第1楽章第6小節の頭が、テープ編集の痕跡のように瞬間的に音が欠落しているように聞こえるが、それほど聞き苦しくはないので、問題はないだろう。メロディア盤は、そのような欠落はないので音源の出所は違うのかもしれない。独DGGの2535 807も音は悪くはない。再生音はメロディア盤よりもユニコーン盤に近い。ドイツにテープが返還される前のLPなので、恐らくドイツのどこかの放送局に残っていたテープからのレコード化だろう。この音源も瞬間的な音の欠落がないので、ユニコーンとは別のテープかもしれない。

仏フルトヴェングラー協会もまた、大戦中のフルトヴェングラーの音源をレコード化している。制作当時、入手が難しかったメロディアLPから「板起こし」をしたり、放送局に残された音源を使ったりしたのではないだろうか。ウィーンフィルと演奏したベートーヴェンの「レオノーレ」序曲第3番(1944年6月)SWF-7101とブラームスの交響曲第2番(1945年1月)SWF-7301 は、メロディアからLPが出ていないだけではなく、他のレーベルからも良い音でレコード化されていないので貴重である。

その他に、特に重要なのが2つある。まず、SWF-7302は、大戦中のフランクの交響曲ニ短調を収録している。同じ演奏を収めた米Vox PL-7230は、会場ノイズをカットした時に生じたと考えられている音の欠落があるにもかかわらず、高音質で人気があり大変高価である。ただ、実際にVox盤を聴いてみると、確かに管楽器の音が生々しくて音は良いが、ピッチが若干高めでテンポが速い。仏協会盤は欠落が無いだけではなくピッチとテンポも正常で、Vox盤に及ばないにせよ音も良いし、十分に楽器の自然な響きを再現するので、名演を抵抗なく楽しむことができる。マグネットフォン最後のフルトヴェングラー録音ということもあり、技術者が経験を積んだせいか音割れもほとんどないが、テープの保存状態が良くないらしく、音揺れがある。Vox盤では音揺れが気にならないので、このレコードが作られたときには、まだテープが余り痛んでいなかったのであろう。

もう一つ、仏協会SWF-8601/8604(2枚組)はとても魅力的である。繊細な音をしっかりととらえていて、メロディア盤に負けていない。特に、シベリウスの交響詩「伝説(エン・サガ)」は、明らかにメロディア盤よりも良い音質で、打楽器の小さな音をはっきりと再現したりしていて、自然なオーケストラの音で名演を楽しむことができる。おまけのように入っている、モーツァルトの「魔笛」からの夜の女王のアリア2曲が絶品で、このアルバムの魅力を高めている。録音年代が「魔笛」だけ異なり、戦後の商業録音だけあって素晴らしい音質である。シベリウスのヴァイオリン協奏曲は両面を使っているユニコーンUNIC-107の音圧にはかなわないが、決して片面収録の仏協会盤の音質が著しく劣っているわけではなく、演奏の素晴らしさが十分に伝わってくるし、2枚組のコンセプト・アルバムとして十分に満足できる。

仏フルトヴェングラー協会SWF-8601/8604(2枚組)の内容を録音年代順に並べ替えると次のようになる。

ベルリン・フィル
1943年
●2月7, 8, 9 & 10日 旧フィルハーモニー (ベルリン)
・シベリウス:交響詩「伝説(エン・サガ)」
*終演後の拍手付き
・シベリウス:ヴァイオリン協奏曲(Vn: ゲオルク・クーレンカンプ)

1944年
●2月7 & 8 日(午前11時と午後3時) ベルリン国立歌劇場
・ヘンデル:合奏協奏曲Op.6-10
・モーツァルト:交響曲第39番

ウィーンフィル
1950年
●2月3日 ブラームスザール EMIスタジオ録音(ウィーン)
・モーツァルト:「魔笛」から2曲 (Sop: ヴィルマ・リップ)


ユニコーンから出た大戦中の録音(UNI(UNIC)規格)

UNI-100/1(2LP):ベートーヴェンの交響曲第9番『合唱』とブラームスのハイドンの主題による変奏曲
UNI-102:ブラームスのピアノ協奏曲第2番(フィッシャー)
UNI-103:ベートーヴェンの交響曲第4番(第2楽章までがライブ、残りが放送録音)
UNI-104:ベートーヴェンの交響曲第3番『英雄』(ウラニアのエロイカと同じ演奏)
UNI-105(発売中止):シューベルトの交響曲第9番『グレイト』
UNI-106:ベートーヴェンの交響曲第5番『運命』とピアノ協奏曲第4番(ハンゼン)
UNI-107:シベリウスのヴァイオリン協奏曲(クーレンカンプ)
UNI-108:欠番
UNI-109/10(2LP):ブルックナーの交響曲第8番
UNI-111(発売中止):フランクの交響曲

ウラニア盤とは別のテープから作られた『英雄』のレコードは、エリーザベト夫人提供音源によるという。ベートーヴェンの『運命』については、第一楽章第442小節と第444小節で音飛びがないことから、古いプレスを「板起こし」に使っていると思われる。決して、ユニコーンの板起こし盤は、決して悪くはない復刻だが、高音がはっきりせず、オリジナルのメロディア盤が昔に比べると手に入り易くなった今では、もう出る幕は無いだろう。UNI-108が欠番なのは、当初、ベートーヴェンの『運命』とピアノ協奏曲を別々に発売する予定だったのが、2曲を1枚に詰め込んだ為に生じたといわれている。

イギリスのフルトヴェングラー協会と共同で出されたユニコーン盤、WFS規格には、EMIから出ている録音が多数ある。

WFS-1:ブラームスの交響曲第4番(1948年 ベルリンフィル)とハンガリア舞曲第1番・第3番・第10番(1949年 ウィーンフィル(HMV録音))
WFS-2/3:ワーグナーの管弦楽曲
WFS-4:ブラームスの交響曲第3番(1949年 ベルリンフィル)とベートーヴェンの『レオノーレ』序曲第2番(1954年 ウィーンフィル(HMV録音))
WFS-5:ベートーヴェンの交響曲第8番と『レオノーレ』序曲第3番リハーサル風景付き(1948年 ストックホルム・フィル)
WFS-6:ブラームスの交響曲第1番(1947年 ウィーンフィル)
WFS-7:チャイコフスキーの交響曲第4番と弦楽セレナードのワルツと終曲
WFS-8:ベートーヴェンの交響曲第7番(1943年 ベルリンフィル)
WFS-9:ベートーヴェンの交響曲第6番『田園』と『コリオラン』序曲(1952年と1947年 ウィーンフィル(HMV録音))
WFS-10:モーツァルトの『グラン・パルティータ』
WFS-11:モーツァルトのピアノ協奏曲第20番(ルフェビュール)とハイドンの交響曲第94番『驚愕』
WFS-12/3(未発売?):ベートーヴェンの交響曲第9番『合唱』(1951年 バイロイト祝祭管弦楽団)
WFS-14:欠番
WFS-15:欠番
WFS-16(未発売?):ベートーヴェンの交響曲第1番と交響曲第4番(1952年 ウィーンフィル(HMV録音))
WFS-17/8:ブラームスの『ドイツ・レクイエム』

『ドイツ・レクイエム』は、ユニコーン盤が初めてのレコード化である。ハンガリア舞曲や序曲は、ユニコーン以外のLPも出たが、案外、LPで見つける機会が少ない。



写真:
.轡絅肇薀Ε垢肇癲璽張.襯箸鯀箸濆腓錣擦震ノ賄なアルバム 独DGG LPM-18960
↓ブルックナーの交響曲第8番 英UNIC-109/110
きゥ屮襯奪ナーの交響曲第8番 英UNI-109/110 赤レーベル
ΝД戞璽函璽凜Д鵑慮魘繕並5番『運命』とピアノ協奏曲第4番(ハンゼン)英UNI-106 水色レーベル
┃シベリウスのヴァイオリン協奏曲 英UNIC-107
シベリウスのヴァイオリン協奏曲 英UNIC-107が入ったUNI-107のジャケット
シベリウスのヴァイオリン協奏曲 英UNI-107 赤レーベルのレコードが入っているジャケット。青色の濃さが違う。
メロディア盤のシベリウス ヴァイオリン協奏曲と交響詩「伝説」露M10-45909 004 白レーベル Gost-80
「エン・サガ」他、魅力的なアルバム 仏フルトヴェングラー協会SWF-8601/8604