









「彼(ブラームス)の発展は拡大的ではなく、いわば集中的になされました。彼の作品は、老境に入るにつれてしだいに簡潔、濃厚、緊密なもの、しかも視覚的には素朴なものになります。多様性に向かう発展や展開だけではなく、単純さに向かう発展や展開も存在するということが、ほかならぬブラームスを通して実証されるのです。」
「ブラームスは――この点では偉大な先駆者たちと似かよっているのですが――、きわめて微細な屈折にいたるまで彼固有のものであり、しかも民謡の響きをするメロディーを作曲することができました。(中略)現代的で、時代に即し、個性的で、感受性にとみ、しかも偉大で超個人的な共同体にいたる道の確保された音楽を、彼は作曲することができたのです。」
ブラームスの良き理解者で、偉大な演奏者でもあったフルトヴェングラーによるブラームスの交響曲の演奏は、「老境に入るにつれてしだいに簡潔、濃厚、緊密なもの」になったブラームスの作風を的確に演奏に表している。大戦中の録音では、交響曲第4番とピアノ協奏曲第2番が残されている。これらは、作曲家が最盛期から老境に入る時期の作品で、枯れた味わいを時には見せながらも、ロマンチィックな力強さが際立っており、フルトヴェングラーがブラームスと時代を共有する世代に生きたことが深い共感となって、「濃厚、緊密な」作品を和声の機能を意識して見事なテンポ・コントロールで表した演奏を通じて伝わって来る。
ブラームスの交響曲第4番とフィッシャーと共演した方のピアノ協奏曲第2番は、メロディアで出されたフルトヴェングラーのLPの中でも、最も古い時期であるGost-56からLP化された中の一つである。しかしながら、人気があったベートーヴェンの交響曲のように何度もレコードを作った訳ではないらしく、Gost-68のレコードを聴いても、それほどテープの劣化が認められない。その代わり、ブラームスの2枚は市場に出てくる機会が少ない。とりわけ、Gost-56とGost-61の交響曲第4番は、滅多に見ない。
ブラームスの交響曲第4番は、かなり後にプレスされたピンク・ダブルレターGost-68、黄色シングルレターGost-68でもかなり鮮烈な音で楽しむことができる。特に黄色シングルレターの中にはとても良い音で再生できるレコードがあり、鈍い音が多いシングルレターのメロディアLPの中でも例外である。ダブルレターからシングルレターに変わる時期にプレスされたのだろうか。
それでも初期のプレスであるGost-56の方が空間も伝わってくるようなリアルさが感じられる。ただ、再生にはレコード針との相性があり、あるカートリッジを使うと、青大聖火Gost-56テスト盤よりもAKKORD Gost-56の方がくっきりと聞こえるが、他のカートリッジでは、青大聖火Gost-56テスト盤も演奏者の息づかいが感じられるような生々しさが伝わってくるので、どちらのレーベルのレコードが優れているかの判断は難しい。ただ、確かなのは、Gost-56を上手く再生した音は、とても大戦中の録音とは思えないほど音が良くて、Gost-68よりも優れているということだ。一方で、Gost-68を含めて、Gost-61のダブルレター・レーベルが付いたレコード以降のプレスについては、針との相性を気にせずに通常の再生で楽しめる。
この曲については、そのまま再生すると、若干、ピッチが高く、テンポが速くなるので、レコード回転数を少しだけゆっくりにする調整が必要である。正しいピッチにすると、より自然な楽器の音になるし、戦後の演奏と似たテンポになってより枯れた味わいが出てくるし、元々、存在した暖かさや静かな雰囲気が再現できる。適切ではないレコードの回転スピードで聴いたこの演奏について、「解釈を深める途上」という認識するのは全くの間違いで、レコードの回転スピードを修正して聴けば、いかに偉大な演奏だったかがよく分かる。この曲の戦後のライブの味わい深さも魅力だが、大戦中のこの演奏は音の割れが少なくて録音状態の良いので音の勢いや音楽の主張をそのまま伝えていていて、メロディアのLPを上手く再生するならばフルトヴェングラーが演奏したブラームスのベストの一つである。
特に、第1楽章でソナタ形式に基づいた、目立たぬテンポ・コントロールがとても見事である。ブラームスがはっきりと記入したテンポ表示以外の場所でも、かなりテンポはかなり変化させた演奏であり、古典派の構造を持つこの作品が、ロマン派の影響下で書かれたことをよく表しているし、テンポの速めた後で元のテンポに戻す時の自然な流れは、和声進行、つまりオーケストラ全体の緊張と弛緩の表現と連動しており、まさに「神業」といえる。それが分かるのは、メロディアの古いレコードがきちんと昔の演奏を良い音で再生する御陰である。第2楽章は、「オーケストラを歌わせる」のが上手かったフルトヴェングラーの力量がよく出ているし、第3楽章は細かなテンポのコントロールで、おどけたアレグロ・ジョコーソの表情を造ったり、厳しさや優しさ、めまぐるしく変わる人間的な面白さが出ている。第2楽章と第4楽章は、フルトヴェングラーの最が得意とする変奏形式で書かれているので他の追随を許さない。巨匠の気力と体力が調和した最も充実した時期ならではの名演だ。作品全体から考えられたそれぞれの楽章のテンポ設定が、交響曲としての統一感を生み出しているのも聞き逃せない。全ての演奏者が演奏に没頭して、我を忘れて熱狂的に演奏しているかのように聞こえる第4楽章でさえも、実は冷静に考え出されたテンポの中で演奏しているのだ。残された戦後のこの曲の演奏には、録音が冴えないのもあるが、大戦中のこの演奏は、それを穴埋めするのに充分な良い録音で残された。
写真:
´↓ブラームスの交響曲4番 33D-09867/8 青大聖火Gost-56テスト盤 共通ジャケット
きキΕ屮蕁璽爛垢慮魘繕複竿屐33D-09867/8 AKKORD Gost-56 共通ジャケット
Л┘屮蕁璽爛垢慮魘繕複竿屐33D-09867/8 ピンク・ダブルレター Gost-68 共通ジャケット
ブラームスの交響曲4番 33D-09867/8 黄色シングルレター Gost-68 共通ジャケット