イメージ 1

イメージ 2

イメージ 3

イメージ 4

イメージ 5

イメージ 6

思いがけなく、「日本一」の鰻料理を出す店に出会った。

昼食も取らずに歩き続けて午後3時、疲れを感じて、太宰府天満宮を後にして帰ろうと駅までたどり着くと、「野生の勘」が働き、見かけがぱっとしないウナギ屋に吸い寄せられた。入り口の見本も冴えない感じで、「やっぱりやめようかな」と脳内の理屈の思考が働く。それでも、大好物を目の前にした空腹の胃袋からの「ここでウナギを食わずにどこで食べる?」という問いかけに、「思い切って、ここで食べてみよう」という結論を下した。

入った時には一家族が食事を終えて帰る頃で、ガラガラの状態だった。余りよく考えずに、「基本」と思った「うな重」を注文した。出てきたのは、「いつもよりも厚いなあ」と思いながらも、見た目は普通の鰻重。ところが、口に入れた途端、「うまい、何か違うぞ!」という感覚を覚えた。芳ばしさと、若干のパリッとした絶妙な食感は、東京、浜松、関西で食べたどの鰻重よりも美味しかった。他のお客さんが誰もいなくなって、しばらくすると、大将が出てきた。「美味しいです」と言うと、たくさんのことを話してくれて、なぜ美味しいのかがよく分かった。僕は表情に全部思ったことがでてしまうので、「美味しい」という気持ちが、十分に伝わったのだと思う。

この店の大将は、この7月末の訪問時点で77歳。愛知県の三河出身で厳しい修行を積んで職人になったとのこと。鰻を切るのに7年、焼くのに最低5年はかかる修行の中で、失敗するとすぐに親方から何かを投げつけられたそうである。テレビ局から何度か取材されたりしたせいか、儲かると思った何人もの弟子入り希望者が来たが、鰻で飯を食う厳しさに耐えきれる者は一人もおらず、みんな夜逃げ同然で、挨拶もせずに帰ってしまったそうである。決して怒ったりせずに丁寧に教えても、結局、逃げてしまって、若者の意気込みの無さとか、根性の無さにがっかりして、そういう若者ばかりが増えてしまった日本を、「もうこの国は駄目だ」と思うようになったという。最近は原発の放射能汚染問題で食べるものも限られてきて、ますます「駄目だ」と思うようになった。

太宰府駅周辺にも、喫茶店が幾つか出来たが、みんなすぐ潰れてしまう。それは、大将に言わせると当然のことで、潰れてしまう店のオーナーは、最初の投資を、例えば1千万円かけたとして、一度大金をかければ努力なしに儲けられると勘違いしていて、大きな間違いだ、という。お客さんに「美味しいもの」提供して、味で満足させなければ、潰れるのは当然だ、という。不味いものはすぐ忘れてしまって、不味い店に間違ってまた行ってしまうこともあるが、美味しいものは絶対に忘れられないし、どんなに遠くても自ら再び食べに行こうという気持ちになる、というのが、大将の考え方である。だから、鰻重と一緒に出されるデザートのみかんも一流で、静岡県の腕の良い農家から取り寄せた、皮まで丸ごと食べられる甘いみかんだし、酢の物にしても、長崎から生きたクラゲを取り寄せて作るという。ここで出している鰻の刺身は、ここの大将が自ら工夫してメニューに入れたが、血を抜くのが難しくて、かなりの量の鰻を切って練習したらしい。当然、ここの鰻は「日本一」で知られる一色産で、息子が経営している鰻問屋に具体的に指示を出して仕入れていて、直前まで生かしておいた鰻を店で出している。「店はボロいし、おやじもボロいけれども、お客さんに満足してもらおうという気持ちは誰にも負けない」という自信のある言葉を聞いて頷ける美味しい鰻料理は、自称「日本一の鰻屋」に全く反論できないほどの実力を示していた。

この店の大将のように何十年もの経験を積むと、鰻をつかんだだけで、何グラムの重さで油がどのくらいあるかが瞬時に分かるそうである。「幻」と名付けられたメニューでは、厳選された脂の乗った鰻が出され、タレも普通の鰻重とは違う。タレは、東京で何百年も鰻屋をしてきた店から譲ってもらったものを、さらに改良して使っているという。その話を聞いて、翌日もまた行って、刺身と「幻」を注文してしまった。何という贅沢!「幻」の鰻は肉の厚さ、ジューシーさ、かつて食べたどの食べ物よりも美味しいといっても良いくらいである。これに勝てるのは「お袋の味」しかないだろう。

「年を取って体力が落ちて仕事がしんどくなった」と言うこの店の大将は、親方からの「自分で焼いた鰻を決して飲み込むな」という教えを守っている。今でも味見で口に入れても、鵜飼いの鵜のように全て吐き出してしまうそうである。腕が上がれば上がるほど、自分が作った美味しい味を知ると、それを隠れて食べてしまう誘惑に負けてしまうというのが理由である。何十年もやっていて、今までに喉を通った鰻は、多くても全部で10本以下だそうである。体力が落ちたなら鰻を食べれば楽になるのに、何とも気の毒な話だが、そこにプロフェッショナルな心意気を感じる。

体力が落ちてしんどくなってきたので、そろそろやめようか、という思いの一方で、自分の様な厳しい修行を経た職人がいなくなってしまうと、鰻の本当の美味しさを出せる人がいなくなってしまう、という複雑な思いが大将にはあるようである。僕が美味しそうに鰻を食べる様子を見て、「目を見れば美味しい、と思っているのがわかる」と、うれしそうに見ていた大将の姿が忘れられない。

うな徳
福岡県太宰府市宰府1-10-32
電話092-929-5522
*西鉄の太宰府駅改札を出てすぐ左、道路を隔てた向かい
*写真: 屮椒蹐ぁ彭垢粒梓僉´▲瓮縫紂次´うな重 ぁ峺検廖´テ銈厚くてジューシーな「幻」の蒲焼き Ρ靴了豹
*肝は普通は1つだけだが、サービスで2つ出していただいた。