LOVELESS,LOVELOSS | おっちゃん日和 -皆殺しじゃぁ-

おっちゃん日和 -皆殺しじゃぁ-

毎日が8月31日です。

 10年近く前になるケド、5,6年同棲していた。
知り合って、交際が始まって、一緒に生活するようになるまで、
1年掛からなかった。
 
 オレも彼女もバツイチで、当然、お互い結婚を意識した付き合い。
 お互い傷を舐め合い、傷付け合う事を恐れて生きてきた。
 お互いホンの少し距離を置いて生活していたように思う。
 年月を重ねることに、そうすることが普通になり、当たり前になっていった。

 そんな日々に繰り返し、積み重ねの中で、時々、頭の中を過ることがあった。
「この人と別の生活をしたら・・・。」
多分このことは、オレと彼女両方とも、ほぼ同時期に芽生えた事柄だと思う。
意識はしていても、決して口にすることはなかったケド。
 
 ところがある日、ふとしたことでどちらからともなく、口にしてしまった。
その時は、お互い笑ってやり過ごしたケド、確実にその時から2人の間にはミゾが出来た。
 傷付け合う事を極端に恐れ、互いの傷に触れないようにしてきたけれど、このときから、
確実に綻び始めてしまった。
 お互い意識しないようにしてはいたが、確実に、日に日にミゾの深さ、幅の大きさは、
増して行った。

 その頃オレは転職したばかりで、覚えなければならないことが多く、早朝に出勤して、
帰宅するのは夜中近くになった。
 当然、彼女と会話する時間もなくなり、一緒に生活していても顔を合わせる時間さえ無くなって行った。
そうすると、お互い少しずつ興味が薄くなっていく。
オレはその頃から、嫉妬心やヤキモチ焼くということがなくなっていった。
それまでは、彼女は浮気をしていないか?とか、彼女の携帯電話がメールを着信するたび、口にこそ出しはしないが、
気が気ではなかった。ところが、彼女が誰かと電話で楽しそうに話していても、頻繁にメールをしていても、
全く気にならなくなっていった。

 そんなある日の休日。珍しく二人そろって朝食の時間。
オレは彼女に言った。
 “オレ、この部屋出るわ・・・。”
彼女は、
 “そう・・・。 ”
  とだけ言って、朝食の準備を続けた。
 それ以降、具体的な話の無いまま、今までと変わらぬ時間が過ぎていった。
 オレは忙しい仕事の合間を縫って、アパートを見つけ契約を済ませ、引越しの段取りを進めていった。

 引越しの日にちが決まったことを彼女に告げると、
彼女はまた、
“そう・・・。”
と言ったキリだった。

 引越し当日、彼女は朝からバイトに出かけた。
オレは地元の後輩を手伝いに呼び、会社からトラックを借りた。
 元々、彼女の家に転がり込むように始まった同棲。
荷物はほとんど無かった。2人がかりで半日程度で済んでしまった。
 後輩を帰し、トラックを会社に返却して、彼女の部屋に戻った。
鍵を返さなければいけないのと、残ったホンの少しの荷物を運び出すためにだ。
 彼女が帰宅するまで、2時間程度待つことにした。
 自分の荷物がなくなった部屋は、なんとなく他人の部屋のようだった。
 TVを観るわけでなく、音楽を聴くわけでなく、ただタバコをボンヤリ吸っていた。
 時間通りに彼女は帰宅した。
 彼女に鍵を渡し、少しだけ会話をして部屋を出ようとすると、
 “ごはん食べに行こうか。”そういって、シャワーを浴びて着替えをした。

 2人でよく行った、近所のファミリーレストランで、お互い無口になりがちな、
ギコチナイ食事をした。
 新居のアパートでイロイロと業者が来ることを彼女に告げると、
部屋を見てみたいということで、一緒に行くことにした。
 業者を待つ間、大して荷物のないガランとした部屋の中、灰皿と缶コーヒーを間にして、
床に座りボソボソと会話をした。
 しばらくして彼女は、
 “じゃあね。”そう言って帰っていった。

 引っ越してからしばらくしたある日のこと、仕事が終わり帰宅途中気が付くと、
彼女のマンションの駐車場に車を入れていた。
 慌てて引き返した。車を駐車場から出しながら、彼女の部屋を見上げると、温かそうに電気が灯っていた。
 自分の部屋に着き、玄関を開けると冷たい空気が一気に噴出し、中は真っ暗だった。
 玄関のドアを閉めて、靴も脱がずに立ち尽くし、涙を流した。


 それから数週間して、彼女から連絡があった。
オレ宛の郵便物や荷物が届いていると言うことだった。
 翌日の仕事帰りに立ち寄ることにした。
 
 約一月ぶりに訪れた彼女の部屋は、オレが生活していた痕跡すら全く感じさせなかった。
荷物を受け取り帰ろうとすると、
 “晩御飯の用意してあるから、食べていけば?”
オレは言葉に甘えることにした。
 久しぶりの彼女の手料理。オレはなんとなく気まずくて黙ったまま箸をすすめていた。
 彼女はポツポツと話し出した。
 オレと一緒に生活している間に何度か、デートや浮気をしていたこと、オレが寝ている間に、
オレの携帯電話をチェックしていたことなど。
 不思議と冷めた気持ちで聞いていた。
 怒りも嫉妬心も何も湧いてこなかった。

 この頃から、オレは誰かを本気で好きになるというコトを忘れてしまった。
“誰かを真剣に愛して”
 そうしたい気持ちはずっとずっと持っている。
 ダケド、自分の中で自分でもわからない線引きが出来てしまって、
誰かを好きなっても、“コレ以上イッテハ、イケナイ。”“自分モ傷付ク、相手ヲ傷付ケテシマウ。”
 ココロの中で赤信号が灯ってしまう。
 人としてとても寂しい人になってしまった。
 誰かを好きになると同時に、ココロの中の冷蔵庫が全開で動き出して、
熱くなり始めたココロを冷ましてしまう。
 気持ちも体も固く身構えてしまう。
 平静を装おうとして、イッパイイッパイになってしまう。
 いつの間にか人に対して、壁を作ってしまう。
 それは、身内に対してもだ。


 たぶん今オレが、素っ裸で向き合える人は、いないに等しい。
 常日頃、
 “過去は何をしても変えられない。”そう思って生きている。
 過去は足枷でしかないと思う。
 それでも、今素っ裸で向き合える相手の前では、足枷のことは忘れている。
 だから、その人たちには何をしても惜しくない。
 もし望むなら、この命あげてもいい。
 そう思える人たち。
 その人たちといる時間が最高の幸せの時間。
 その人たちの笑顔を見ているのが、何よりの御褒美。
 
 それが今のオレの愛のカタチなのかも。
 それが、いいことなのか?悪いことなのか?
 オレには全くわからない。