すっかり梅雨明けしたとばかり思っていましたが、ここのところ、雨ばかり降るので、なんだか損した気分です。DASH!
どうやら、勝手に梅雨明けと勘違いしていたようです。ハートブレイク




ひらめき電球オススメ度 ★★★

『鳥人計画』 東野圭吾 著



~あらすじ~


日本ジャンプ界期待のホープ、楡井明が謎の死を遂げた。
検死の結果、死因は毒殺と判明。
ジャンパーたちはみな、異なる企業に所属する実業団の選手たちで、同じホテルに滞在中。
そのため、犯人は必然的にジャンプ関係者に絞られる。

警察は、狭い範囲で容疑者を割り出すこともあり、事件は早々に解決すると高を括っていたが、捜査は難航し、暗礁に乗り上げる。


そんなとき、楡井のコーチ、峰岸貞男のもとへ、自首を促す手紙が届く。
それと同時に、警察にも峰岸が犯人だと書かれた密告状が送られてくる。
そして、峰岸が逮捕される。

犯人逮捕で事件解決かと思いきや、そうではなかった。
事件は世界と日本ジャンプ界の隔たりや、天才と凡人の違い、究極のアスリート育成を目指す秘密の訓練法、信頼と裏切り、脅威や家族愛といったことにまで関係していた。


さて、峰岸は本当に楡井を殺した犯人なのだろうか?




~感想~


まず、本書の見どころは、殺人の容疑で逮捕された峰岸が、匿名の手紙の差出人を推理するところ。
彼の推理が進むにつれ、犯行のトリックや落ち度が明らかとなっていくのだ。
「犯人が誰か?」ではなく、どうやって犯行が行われたのかを探っていくのは、読んでいてなかなか新鮮な感じがした。


楡井亡きあと、新ライバルの出現に落ち着かない沢村というジャンパーは、相手方の極秘訓練を暴いてやろうとやっきになる。
峰岸の推理と沢村のストーリーはまるで関連性がないように思えるが、実は、沢村の行動が後に事件の真相を解明するのに大いに役立つ。


そして、もう1人、真相を暴くキーパーソンが、楡井や峰岸とは別のチームの監督を務める杉江泰介。
彼は人間の動きを科学的に分析し、可能性に挑戦しようとするのだが、度が過ぎて、一度日本ジャンプ界を追放されてしまう。
それでも諦めず、より完成度の高い訓練法を開発し、再び日本ジャンプ界に戻ってくる。
この男、非人間的な方法をとっても勝てば評価されると主張する、かなり非人間的な人。
勝つために、自分の息子をサイボーグ化してしまったり、色仕掛け作戦を企てては、実の娘まで利用するのだ。


スポーツは、努力よりも、もとから個人に備わっているセンスが結果を左右するというものの1つだと考える。
もちろん、努力のたまもので優勝を勝ち取ることはあるし、どんな天才でも努力なしでは才能を開花させることはできないだろう。
しかし、それには限界がある。
走るのが好きで、子供のころから一生懸命練習すれば、誰でもオリンピックで金メダルを取れるかというとそうではない。

F1がいい例だ。
故アイルトン・セナは、道幅が狭いことで有名なモナコGPのテクニカル・コースで、ほかのレーサーよりも1センチほどインに入りコーナーを走り抜けていたと言われている。
時速300キロ以上の世界で、この1センチの壁を敗ることができるからこそ、彼は天才と呼ばれたのだ。


話を本書の感想に戻すと、スポーツの世界で凡人が天才の領域に踏み入ろうとすれば、必然的に非人間的なものに頼るしかないのかもしれない。
そう考えると、冷酷で最低人間かもしれない杉江監督の心境もわからないでもない。
とはいえ、彼の場合はその野望がゆえ、人格はかなり歪んでおり、所詮は天才を執拗に追い求める哀しい凡人という印象だが……。


でも、凡人だって悪くない。
知らずと事件の真相を探ることになる沢村も凡人だ。
天才の楡井は天真爛漫で、ちょっと不思議ちゃん。
試合の前も緊張しないし、結果が悪いと落ち込んだり考えたりすることもない。
一方、沢村は必死にイメージトレーニングをしたり、失敗して悩んだり、自己嫌悪に陥ったりする。
調子がよくても決して天才には勝てない凡人君だ。
だけど、彼は楡井のコピーになりたいとは思っていないのだ。
勝ちたいけれど、自分は自分なのだ。


著者はそんな2人の青年を対照的に描きながら、その周りに杉江のような執拗に天才にこだわる人や、天才になりたいけど自分の限界をしっかりと受け入れる人など、多様な人物を登場させている。
本書は推理小説なのだが、一番の魅力はそんなユニークな人間描写のような気がする。

海外のテレビドラマでは、夜ベッドに入って読書をするシーンがよく見受けられますよね。

あれって、かえって目が冴えちゃわないんでしょうかね?

「結局、朝までかかって、最後まで読んじゃった叫び」ってことにはならないんでしょうかね?





ひらめき電球オススメ度 ★★★★



『火の粉』 雫井脩介 著



~あらすじ~

裁判長・梶間勲は、殺人の罪で起訴されていた被告・武内信吾の裁判を担当する。幼い子供を含む一家三人を惨殺したあと、自も暴漢によって暴行を受けたかのように偽装するといった、残虐で巧妙な手口で行われた犯行だった。社会でも注目を集めており、誰もが被告の有罪を確信していた。


ところが、勲の下した判決はなんと、無罪。
被告が負ったケガについて、“自作自演”と証明する証拠が不十分だったため、そのような重傷を負いながら人を殺すのは無理と判断したからだ。


それから2年後、退官した勲は法学部の教授となった。念願のマイホームも手に入れた。転勤もなければ、裁判に頭を悩ますこともなく、平穏な毎日を送っていた。
ところが、オープンキャンパスが開かれたある日、勲の講義に1人の男がやって来た。
2年前に勲が無罪にした武内だった。

彼との再会によって、勲はもとより、梶間家の歯車は大きく狂い始める。

武内は「私を救ってくれた恩人」と言って勲に近づくだけでなく、なんと、梶間家の隣に引越しまでしてくるのだ。そして、まずは勲の母親の介護で、精神的に疲れていた妻の尋恵に取り入って仲良くなる。次に、30歳になるが、いまだに司法浪人中という、うだつのあがらない息子・敏郎も、まんまと味方にする。孫のまどかは、お菓子をあげて手なずける。そして、彼らを利用して、あからさまに武内に対して疑いのまなざしを向ける嫁の雪見を、梶間家から排除しようとするのだ。ついに雪見は、敏郎と別居することに……。

一方、勲はというと、家族がばらばらになっていくのを横目に、かつての自分の判決が間違いだったのではないかとさいなまれる。






~感想~


意地悪ばあさんの介護は別として、「裁判長を退官したら教授」、「5LDKの持ち家」、「30歳で司法浪人の身でいられる息子」「結婚しても、同居中の親に生計を面倒見てもらえる」など、梶間家は裕福な家庭といえるだろう。
でも、この家族、かなり欠落しているのだ。


確かに、他人の人生に大きな影響を与える裁判長である人間が、「過ちを認めることが大切」とはいえ、一時の感情で、一度下した判決を「やっぱり間違いでした」と簡単に変えてしまうようでは困る。
だから、梶間勲がかつて自分で下した判決に疑問を持つというのは、本当に「苦悩」以外のなにものでもないのだろう。武内を完全に否定しきれないのは、そういった自らの葛藤などがあるのかもしれない。
ただ、その勲は自分の家庭が崩壊しつつあるときに、「決断」ができないのだ。
2年前には、誰もが有罪を確信していた裁判を、疑わしきは罰せずと決断を下したのに。


息子の敏郎もまったく頼りない。
自分の嫁よりも、ひょっこり越してきたお隣さんを信用し、嫁を追い出してしまっても平気なのだから。
つねに一方からの情報だけを判断材料とするし……。
彼のような人が司法試験に合格したらどうなるのだろうか?

そんななかでもたったひとりまともなのが、嫁の雪見。
彼女は彼女で、あまり人には言いたくない“歴史”があるのだが、それでも始終、比較的冷静で、何が一番大切なのかとしっかりとわかっているのだ。
敏郎の嫁にはもったいないくらい。


『火の粉』ではこのような人たちの感情が交差する様子がとても鮮明で、ストーリーの結末もさることながら、それぞれのキャラクターがどう変わっていくのか、とてもドキドキする。
また、事件が無罪となった被害者の親族の心理や、武内という男の異常ぶりも生々しく描かれており、それでいて「あぁ、こういう人いるかも」と思ってしまうところが、ちょっと怖かったりもする。


そして、最後のシメが個性的だ。
梶間家が家族としてあるべき姿になるために浴びた代償は、果たして大きすぎるのだろうか?
そんな「判断」を読み手に委ねているところが、とても興味深いように思う。