ウィリー・ラムのベルリン事件分析 | Observing China

ウィリー・ラムのベルリン事件分析

元サウスチャイナモーニングポスト記者で、世界的なチャイナウォッチャーのウィリー・ラムが13日、習近平の「ベルリン事件」について分析したコラムをウェブサイトAsia Sentinelに寄せた。

「中共政治局という『万里の長城』に生じた亀裂」と題したこの文章で、ラムはベルリンで習がメルケルに江沢民のあいさつしか伝えなかったことは、「中央軍事委員会に自分を加えなかった最高権力者(=胡錦涛)に対する非難」であり、今回あからさまに江寄りの姿勢を示したことで、3年後に迫った18回党大会人事をめぐる戦いの幕が切って落とされた……という趣旨のことを書いている。

何だか当たり前すぎて突っ込みようもない。中南海に権力闘争があるのはいつものこと。胡錦涛と江、そして習の三角関係がどうなるのか、その疑問にラムは一切答えてくれない。

■□胡vs.江+習、なのか□■

ラムは「習が17回党大会で胡の後継者に指名されたのは、自らも太子党である江の助けがあったからだ」とも書いている。07年の党大会の最後の最後で習と李克強の序列がひっくり返ったのは、もちろん江の一押しがあったからだろう。

ただその「一押し」の動機付けのため、共産党員の養子でしかない江と、リベラル副首相の息子である習を「太子党」で括るのはいささか無理がある気がする。「太子党」は原因なのではなく、結果として「太子党」だったというだけなのではないか。

そもそも「太子党」という呼称がよろしくない。「太子党事務局」が中南海近辺のどこかにある訳でもないし、構成メンバーがだれかもはっきりしない(李源潮・党中央組織部長は太子党兼団派兼上海閥という人物だ)。

「共産党の既得権益の受益者」軍団と位置づけるのが正しいのだろうが、それでも「既得権益」はそれぞれ受益者によって違う。あからさまに地位やカネの人間もいれば、名誉だという党員もいるだろうし、純粋に「共産党LOVE!」という奇特な人もいよう。

これほどまでにバラバラな人たちが、さほど人間的魅力があるとも思えない「第三世代の核心」サマの下に一つにまとまって、「既得権益」を守るために最高権力者に戦いを挑んでいるとは到底思えない(むしろ「団派」のほうがメンバー構成も思想的背景もはっきりしている)。

■□習近平の本心はどこにある■□

習は、いまのところ江の手勢として使われているだけのように見える。そして、江がいなくなれば「太子党」は消えてなくなる。抗争の基本的な構図は胡vs.江でしかないからだ(戦いのそもそもの原因はおそらく江の胡に対する嫉妬心だろう)。何とはなしにだが、胡の怒りの矛先が向いているのはあくまで江であり、習ではないようにも感じられる。

それに、習が父親である習仲勲のリベラルな人生を肯定しているのなら、習と江は互いに相容れない考えの持ち主ということになる。むしろ、胡や温家宝のほうにずっと親近感をもつはずだ。

もちろん親子で思想的に断絶するケースもあるだろう。だが特にともに文革で辛酸をなめたこの親子の場合、むしろ絆が強まるほうが自然に思える。

「中共政治局員と政治局常務委員は大半が引退するので、新しい勢力が党と国家の指導層に抜擢されることになる」という分析ともいえない分析でラムはコラムを終えている。

ウェブなので手を抜いたのだろうか?