トニー・ブレアの中国観 | Observing China

トニー・ブレアの中国観

英労働党の重鎮にはなぜか筆の立つ人物が多い。元欧州担当大臣のデニス・マクシェーンと現党首のゴードン・ブラウンは米ニューズウィーク誌の常連だ。前党首のトニー・ブレアも8日、ウォールストリートジャーナル紙(ウェブ版)に「中国の『新たな文化大革命』」という文章を寄稿した

「建国60周年記念式典からちょうど1週間後の昨日、中国は初めての世界メディアサミットをスタートした。このことは、中国が歩んできた遠い道のりと、これから歩まねばならない道のりの遠さを示している」

という一文で始まるコラムは、おそらくは所有者のルパート・マードックが目玉としてメディアサミットに参加したWSJ紙が、サミットを「応援」するためにブレアに依頼(たぶん破格の原稿料で)したものだろう。

一読した限り、その筋の人が見たら「キントーマンセー的」と感じるだろう文章である。しかし、よく読めば決してそうでもない。それは冒頭の一文を見ても分かる。

「今日、我々は中国が世界経済を立て直すことができるかどうか、中国がコペンハーゲン会議で温暖化に関するその責務を完全に果たすべきかどうか、そしてイラン問題についていかなる立場をとるべきかについて熱心に議論している。想像してほしい。中国の安定性の行く末について分析することになっていたら、どうなっていたか。そして、幸いなことにそうなってはいない」

中国のカオスは決して世界に利益をもたらさないし、中国をパージすることも世界のためにならない——これが、この原稿を通じてブレアが言いたかったことだと思う。

ブレアがどれほど中国に詳しいかは分からない(原稿によれば、初めての訪中は20年前)。在任中はブッシュのプードルと揶揄され、首相退任後は「高額の講演料で稼いでいる」とやっかまれ、中東特別大使とかEU大統領といった次のポストに就任しても「どうせ役に立たない」とまで言われる彼だが(まさに水に落ちた犬だ)、この文章を読むかぎり、さすがイギリスの首相を10年張っただけのことはある、と感じさせされた。

■□“a new Cultural Revolution”□■

ブレアは書く。「中国の映画、芸術、ファッションやポップ音楽は繁栄している。21世紀の中国では『新たな文化大革命』が起きている。そして、それは以前のものよりずっと健康的である」

エディターが付け加えたのかどうか分からないが、“a new Cultural Revolution”というフレーズには言葉のセンスを感じた(元の原稿のタイトルにもなっている)。

数週間前に訪れた貴州省で、ブレアは現地の人民たちとふれあったらしい。「私があちこち歩いているとき、現地の人々は最初、私を遠巻きにしていた。だが私が話しかけようとすると、彼らも応えてきた。数分後、私たちは写真を撮り、自由に話した。そう、ここは私の昔の選挙区だったイングランド北東部のセッジフィールドではないが、でも北朝鮮でもない。ここ中国で支配する側とされる側の関係は変化している。それも良い方向に」

楽観的すぎると感じるかもしれない。ただ、「巨大すぎる中国は排除することも殲滅することもできない」というリアリズムはおそらく正しく、だからこそ世界のリーダーたちのコンセンサスになっている。

ブレアは次の言葉でこのコラムを締めている。「われわれが中国のこの60年について考えるとき、彼らがあらゆる意味において今後いかに遠くまで進まねばならないかに思いを馳せるだろう。しかし、われわれは中国がこれまで歩いてきた遠い道のりにも考えを及ぼすべきだ。そうすれば中国を助ける道筋も見えてくる」

「親中国的」であることを暗に求められる文章で、トゲをそれなりに忍ばせながら、俯瞰的視点をもって凡百の中国脅威論を否定してみせる――イギリスは150年前に「国策」として中国にアヘンを売りつけたトンデモ国家だが、その末裔であるトニー・ブレア個人は少なくとも信じるに足る、しかも優秀な人物らしい。