私は父の仕事の都合で、幼少期を海外で過ごしている。

小学校は日本人学校ではなく現地の学校へ進んだため、同級生はみんな目や髪の色が違った。

学年でただ一人のアジア人であり日本人だったが、
「月の髪の毛は、黒くてきれい。」
と、よく同級生やその親、先生に褒められた。

生まれもったものを褒められたことが子供心に嬉しくて、自分の黒髪に誇りをもつようになった。
だから私は、髪を染めたことが一度もない。

おかげで髪が痛みにくい体質を手に入れ、光栄にも「髪の毛がサラサラだね」と褒めてもらうことがたびたびある。

先日、3週間ぶりにリンさんとホテルで過ごした。

リンさんは大きな手で私の頭を引き寄せ、「月ちゃんのサラサラの髪からいい香りがする」と言って、優しくキスを落とした。

リンさんの唇が髪から耳、首筋へとたどり、吐息がもれる私の唇を塞ぐ。
やがてその唇で、蜜がとろとろに溢れ出す場所を捉えられた。

「んぁっ…そんなに…だめ…」

押し寄せる快感から逃れたい理性と、湧き上がる快感に溺れたい本能が入り混じって、頭がおかしくなりそうになる。

サラサラだった髪はシーツや枕との摩擦で水分が奪われ、ぐしゃぐしゃだ。

万葉集から与謝野晶子、さらには現代詩まで、情念の象徴として黒髪の乱れを詠んだ歌は多い。

昔を生きた女性たちもまた、私のように黒髪を乱しながら情事に耽っていたのだと思うと、時空をこえて性愛について語り合いたくなる。

ベッドの上で、ボタンを一つずつ外されて肌を露わにされるのと、布団の上で、帯を解かれて崩れた襟元から肌を露わにされるのと、どっちがロマンチックだと思う?

みたいな下世話なおしゃべりを、お花見をしながらしてみたい。