◽️◽️ネタバレと長文、注意◽️◽️
↑これを書いてから約1ヶ月…。
軍を退役し極貧にあえぐケーレンは、
貴族の称号を得るために
国王の悲願でもある、ユトランド半島の
荒地・ヒースの開拓に名乗りを上げる。
北欧の荒涼とした大地、
厳しすぎる自然の脅威が
ケーレンの前に立ち塞がり…。
その地域の支配者である
領主のデ・シンケルから
執拗な嫌がらせを受けても…。
我らがケーレンは…
負けない!めげない!!怯まない!!!
"貴族の称号"を得るという目的遂行のために
様々な危機を乗り越えて、ひたすら
荒地の開拓を進めていく。
なんせ庭師から軍人になり、こつこつと
25年もかけて大尉になった男である。
(貴族の子弟であれば6ヶ月)
そこだけでも映画一本撮れるような
半生を送っているであろうケーレン。
原題『BASTARDEN』は
"婚外子"や"非嫡出子"を意味していて、
父親が領主で母親がその使用人だった
ケーレンの出自からきている。
物語の始まりにも、
ケーレンが最終的に何を選択したのかという
ラストを経たスタッフロールの最後にも。
ひときわ大きく このタイトルが
映し出されていたのが印象的だった。
"持つ者"と"持たざる者"と…
確固たる身分制度が物を言うこの時代。
これまでのケーレンの人生が
いかにこの言葉に囚われ、
翻弄されてきたのか…。
当初は彼のもとで働く農夫たちに対して
かなり横柄な態度で接しているケーレン。
特に家事も担うアン・バーバラには
まさに"使用人"に対するそれ。
荒野に建つ粗末な小屋で生活しながら
きちんと髭を剃り身だしなみを整えるのも、
あくまで自分は"持つ者"側の人間である
という自尊心故か。
全ては"己の信念のため"に行動する
ケーレンが変化していく過程を、
マッツは寡黙に演じる。
時に剛胆に…、時に繊細に…。
その目線から、息遣いから、動作から
ケーレンの思いが伝わってくる。
デ・シンケルの婚約者である貴族令嬢、
エレルとの密やかな"恋"。
結ばれることはなかったが、
のちに彼女の機転がケーレンの助けになる。
…そして。
両親から捨てられたタタール人の少女、
アンマイ・ムス…。
主人であるデ・シンケルに夫を殺された
元使用人、アン・バーバラ…。
2人と苦楽を供にするなかで、
育まれてゆく本当の家族としての"絆"…。
"娘"のような存在になったアンマイ・ムスを
一度手放さざるを得ない苦渋の決断を
とったケーレン。
旅立つアンマイ・ムスを見送るケーレンの表情こそ、
日本版ヴィジュアルにもなったこちら↓
アンマイ・ムスを大切に思う気持ちが
その目から溢れ出ていて…。
のちに彼女が嫁入りして去っていく時も、
(急すぎてちょっと笑った…)
なんとも切ない良い表情をするケーレン…。
デ・シンケルの屋敷のメイドで
主人の"お気に入り"だった、
アン・バーバラ。
農夫のヨハネスと結婚するも
ひどい嫌がらせを受けて逃亡し、
2人でケーレンのもとにやってきた。
地主が小作人の生殺与奪の権を持つ時代。
彼ら逃亡した小作人は犯罪者である。
結局見つかった夫ヨハネスは
デ・シンケルによって惨殺されてしまう…。
厳しい自然環境の中、
全く終わりの見えない過酷な労働の日々。
そんなある夜…。
彼女が、眠っているケーレンに乗っかり
「お互い心は別の人にあるままで…」と
行為を始めるシーンに…グッときたし、
共感もできた。ただ受け入れたケーレン…。
こうして…いつしか。
お互い大切な存在になり、
受け身だったケーレンがアン・バーバラと
積極的に愛を交わすようになる…。
最中の2人の笑顔よ…。
この変化が、とても、良かった。。
今までの苦労が…やっと…。
英題『THE PROMISED LAND』という言葉が
思い浮かぶ…。
本作でも改めて、
マッツの演技の素晴らしさが身に染みた。
そのフランクでお茶目な素顔からは
想像できない…演技の説得力、インパクト。
誰が言い出したのかは未だ知らないけど、
やはりマッツは"北欧の至宝"なんだろう…。
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デ・シンケルの蛮行により
血で血を洗う確執を生み、
とうとうケーレンが
デ・シンケルの手の内に落ちてしまう…。
エレルとアン・バーバラが結託し、
ケーレンを救いだした。
ケーレンはその業績を評価され、
"男爵"の地位を手に入れた。
あれだけ望んだ貴族の称号を得た…。
しかし、アンマイ・ムスも嫁に行き、
アン・バーバラも側にはいない。
アン・バーバラはケーレンを助けるために
主人だったデ・シンケルを、貴族を、
殺害した罪によって投獄。
ケーレンは何年もかけて恩赦を求めるが、
受け入れてもらえない…。
そんなある日。アン・バーバラが
今より酷い待遇の刑務所にうつされる
という情報を耳にする。
…決意した、ケーレン……。
…そこに。
実在のケーレンが男爵の地位を捨て、
その領地から姿を消した…とテロップが出る。
映像に戻る。
荒野に護送の馬車が停まっている。
襲撃にあったようだ。
御者の意識はない。
はずされた手錠が一つ…。
場面が変わる。
海の近くの荒野を馬で駆ける、男。
その背中をしっかりと抱き締めて座る、女。
…ケーレンと。
髪を短く刈られた、アン・バーバラだった。
そこで物語は終わる。
唐突なラスト。
…これでいい。
…これがいい、と思った。
ケーレンが最後に
アン・バーバラを選んだ。
それだけで、いい。
この後、彼らは
どう生きていったんだろう。
そこから先は誰も知らない…。
スタッフロールを観ながら…
『愛を耕すひと』という言葉を、
何度も何度も噛み締めた。









