義両親の挨拶の際に義父から言われた。

 

「この一家の課題は

物を捨てること

 

これから使ってもらう家には(義父の)母のもので

使えそうなものを残してある。

 

使えそうなものは使って、いらないと思うものは

共有スペースに出しておいて欲しい。

 

さあ!案内しよう

 

 

挨拶をした旦那の実家である502号室から

これから私たちが住む予定の501号室へと移動する。

 

玄関を開けるとふっくらと頰がほんのりピンク色で血色がよく、

鮮やかな緑の中で綺麗なお着物を召した

大正の匂い漂うお嬢さんの肖像画がでかでかと飾られていた。

 

「これは母の若い頃に、のちに有名になった画家に書いてもらったものなんだよ」

 

その絵の下には裸婦の鋳造や象の親子の置物、

アジアンテイストなトレイに宅配対応用の印鑑やら鉛筆が

乱雑に置かれていた。

 

 

「このスリッパ使ってね」

 

と、義母から差し出されたのは

黒基調に黄色やピンクの花柄のスリッパ。

 

とことん履き潰されて指の付け根あたりを中心に

シワシワに折れ曲がっている。

 

 

奥のリビングに行くとまず目に入るのは

ライトアップされて金色に輝く仏壇。

 

私の身長よりも大きい。

 

手前の丸テーブルの上にはお葬式で使用したであろう義母の大きな遺影と

L版サイズの義父の写真立てが置かれていた。

 

床の間には掛け軸と仏像?らしきものが飾られていて、

その掛け軸の絵柄は山間の滝のの下に着物の女性がふわりと佇んでいた。

 

仏像は滝行中のような格好をして真っ白い肌に

目がものすごく細長い子供とも言い難いずっしりした印象。

 

電気のスイッチが細かく分けられていて、

たくさんあるスイッチを間違えて仏壇と床の間用の電気をつけると、

暗い部屋にぼんやり浮かび上がる。

 

 

リビングのサイドテーブルにはレースのテーブルクロスが掛けられ、

テレビとDVDのデッキは1台ずつしかないのにリモコンは5個。

エアコンが二つ。

 

キッチンにはたくさんの収納スペースがあり、

「食器や調理器具がたくさん残してあるから好きなのを使うと良い」

 

 

ダイニングテーブルも二人で使うには仰々しいほどの立派な大きさで、

その椅子のクッションもやはり黒ベースの花柄で統一されている。

 

テレビの上にも黒背景の花の絵が飾られて居たな・・・

 

 

「さあ、寝室へ」

 

それぞれの部屋には義祖父母が使用していたSimmonsのセミダブルのベッドが置かれている。

寝具も積み重ねて用意されていた。

 

収納は開くと照明が点灯する。

 

私の部屋も収納スペース自体はたくさんあるが、

経年劣化により戸を開くことができない場所があるらしい。

 

なんだろうか、この匂いは・・・

高齢女性の匂いがする・・・

私、この部屋に、このベッドに

本当に寝られるだろうか・・・

 

一抹の不安を覚えた瞬間だった・・・