愛人(12) |  阿古・二本の虹 第2章

 阿古・二本の虹 第2章

滝の中に洞窟がある。

滝の外側から落ちてくる水に限りなく近づいたとき、砕け散る小さな水玉に二本の虹は見えた。

[ 真 ]


 歩いていた。別にどこに行こうとか考えていなかった。桜子と弘前の町を歩いていた。

道が狭い

「迷路みたいだな」

「そうよ、ここは迷路なの」

「どうどうめぐりでまたもとの場所にいる」

「そうよ、ここは人生なの」

「出口が見つからないよ」

「そんなことはないわ。私は見つけたわ。あなたは見つけないほうがいいの。

それはね、出口を見つけるということは終わりということを示すの。

だって、迷路で出口が見つかったらそこで終わりじゃない?」

「そうだけど。でも、出口が見つかっても、次の迷路にはまり込めばいいんじゃないか?」

「それは次がある人の発想よ。私にはこの迷路が最後なの。

私はそれほど強くはないわ。疲れたわ」

「疲れるのは人間ではないか?」

「明日が見えないとしたら、どうするの?」

「それがいいんじゃないか。どんどん自分を追いこんjで行くことが快楽だと思うけど」

「私はソフトMなの。あなたのハードにはかなわないわ。

そしてね、私は数学をひとつ発見したの。

私には子供ができたわ。

1+1はきっと2とか無限大だわ。

でもね、1+1=0があるということを発見したの」

「1×1=1でもいいんじゃないか」

「そうわいかないわ。私の数直線はマイナスに向かっているの。

今は、もう、プラスを見ることはできないわ」


おれたちは弘前城のお堀の横を歩いていた。

三日月がお堀にうつっている。

すでに花のないしだれざくらが月に触る。

「もう桜はないの。散ったの。わたしも」


おれはいつも現実と夢との境界にいると思っていた。

そして、それ自体が幻であるとわかっていたし、だから、桜子の話が自然におれに入ってきていた。

しかし、どこかで、おれ以外の人がその境界にいるとは思っていなかった。

だから、桜子の話や桜子そのものが幻の幻と思えたし、だから現実ではないと錯覚していたのかもしれない。


桜子はこんなことを言った。

「あなたに会えてよかった」


おれにはまだわからない。

桜子がなぜ現実からいなくなったのか。