愛人(3) |  阿古・二本の虹 第2章

 阿古・二本の虹 第2章

滝の中に洞窟がある。

滝の外側から落ちてくる水に限りなく近づいたとき、砕け散る小さな水玉に二本の虹は見えた。

[ 真 ]


 愛人をアイジンではなくアイビトと読んだらどうだろう。アイジンは密着感の中の寂しさを感じる。

アイビトは大きな愛を感じる。でもそれは大きすぎて届かない寂しさがある。


どの人にも空洞があるのだろうか。

いつからだろう、おれが空洞を持ってしまったのは。5、6歳の頃だろうか。

もしかして普通幼少期や青年期に空虚感や現実感がない世界を持つことがあるかもしれない。

しかしそれは太陽に照らされたり海の夕焼けを見ている間に自然に心の奥から身体を通って外へ抜けて行くのではないだろうか。

人によっては大きさは違うだろうけれども空洞をかなり長い間、いや人によっては一生持ってしまうことがあるのかもしれない。


5歳から祖父母のところで育ったからあまり父母のことを知らない。古い写真が1枚あった。

お正月だろうか、祖父母父母そしておれが写っている。写真館で写したものだった。

沖縄の人なのに父は誰よりも白い肌をしたハンサムな人だった。もてたに違いない。

父母の離婚の理由は父の女関係だろうということは察しがつく。

そんなことはもう許しているというより忘れている。

気になっていたのは父の白い肌はどこから来たものだろうということだ。

ロシアの美少女のような肌と大きな瞳。祖父母のどちらとも似ていなかった。

突然変異のような気がする。どこかで外人の血が入っているのだろうか。


そんな堂々巡りを考えながら東北を旅していた。地図を持たない旅だったから行き止まりもあった。

それはそれで楽しく、知り合った人たちはみんなやさしかったように思う。

仙台を通ったように思う。そして秋田、弘前も思い出す。