[ 塔子 ]
いつものように阿古の家のドアに手をかける。後ろではせみが夏の終わりを知らせてくれている。
鍵はかかっていない。あがっていくと居間に実さんがいる。パソコンに何かを書き込んでいる。
「何を書いているの?」
「やあ久しぶり、今小説を書いているんだ。題はスパイラルスワン。何を書きたいかはわからないけど、今書きたいと思ったわけよ」
「スパイラルスワンの意味は?」
「白鳥が螺旋を回るという意味だ。白鳥はおまえかもしれない。美しいしだから苦しいしだからそれは生きるということであって悲しいかもしれないし、喜びのどこかへの旅立ちかもしれない」
「あいかわらず難しいのね」
「そんなことないよ、塔子は美しいということだ」
「これおみやげ、夕張メロン」
「それは阿古に持っていけよ」
私は階段を上り阿古の部屋に行く。
鞠子が生まれて間もない木精を抱いている。
阿古はベッドに腰をかけている。
「何読んでいるの?」
「ニーチエと無限の中の数学」
「どういう組み合わせ?」
「わからないわ」
「それが阿古の好きなことだからいいじゃない」
「静かな子ね」
「さっきまで泣いていたのよ。そして未熟児だったし」
「大丈夫なの?」
「保育器から出たから大丈夫よ」
「阿古、メロンお土産」
「私大好き」
「鞠子に持ってきたんじゃないわ。私にも木精を抱かせて」