長浜 勤の作品
第一句集『黒帯』十句
一人づつわかれて冬の牡丹園
ひきしぼる先に日のさす弓始
新涼のかしこの文字に息こらす
静かにも葉のうらがへる泉かな
冬の雨プールの水をまたふやす
飯粒のついたる顔の船遊び
まつくろな襟巻ほどき深大寺
金蠅のたつた今までゐしところ
柿干して神より続く家系なり
白魚を食うてのりたる秤かな
第二句集『車座』二十五句 (埼玉文芸賞受賞)
狼の夢見し蒲団干しにけり
鶏頭のこゑの聞こゆる柱かな
燐寸の火ふふふと燃ゆる崩れ簗
鉋屑から猫の子のでてきたる
狐火をああとよろこぶ女かな
丹前を着れば丹田しづかなり
蛤のなかに入つてあそびたし
金蠅の欄間をぬけてきたりけり
ひとりゐる蔵の二階や夏休
春の闇柱に時間隠れをり
梅干して大きな夜空ありにけり
父が死ぬ勤労感謝の日の朝よ
本籍と住所が同じ炬燵かな
初夢の手足がのびて宇宙なり
蜩のふえゆくときに水にほふ
車座の老人月へゆくやうな
先生と春が逝くなり渚通り
頓服をのんで鯨を見に行かう
猫舌のうらとおもてに白魚かな
素泊まりの男うぐひす聞いてをり
きさらぎの水に輪郭ありにけり
銀河系まで紫陽花の濃く薄く
白昼は和紙をもむごと花菖蒲
膝ついて己消したる泉かな
水平に心がとほる茅の輪かな