デビュー | 帯ひろ志の漫画放浪記Powered by Ameba

デビュー

打ち合わせをしながら、いったい何本のネームを描いただろう。
中々OKが貰えず、凹んでいたが、何本目かのネームを掲載候補に
上げて貰える事になった。

普通、漫画の掲載はネームのコンペを経て雑誌掲載の決定に至る。
ネームとは、漫画の設計図の様なもの。
依頼があって描く意外は、プロの漫画家でもこの編集会議で編集長のOKが出ない限り
雑誌に漫画が載ることは無い。

この時の掲載決定は、今日編集長がネームを読んでくれれば決まりそうだと
編集部で聞いた。
確かに僕のネームは編集長のディスクの上にある。
しかし、肝心の編集長が居ない。

ここで待つか、帰るか.....。
変な話だが、これまでに編集部に通い慣れてしまい、編集部に居ること自体では待ったく緊張しなくなっていた。
待たせてもらう事にした。
お昼ごろから待たせてもらい、やがて夜に.........。

編集部で待っていると、色々な人がやってくる。
僕と同じ様なデビュー待ちの新人さん。
初めての持ち込みの人。
そして、連載を持っておられる漫画家の先生。

ふっと、編集部に人が居なくなる瞬間もある。
そんな時電話があると、代わりに電話に出るなんて事もした(笑)

夜8時頃だったかな、担当吉倉さんがお弁当の出前を取ってくれた。
ムシャムシャと頂く。
高いお弁当だったんだと思う。うまかったもんな。
しかし、編集長は現れない。

そろそろ帰ろう、そう思った時編集長はやってきた。
ホッとしたけど、中々ネームを読んで下さらない。じれったいー(笑)

やっと読み始めてくれた。
ドキドキ。どうなんだろう、OKなんだろうか、それもまた描き直しか.......。

編集長はネームを読み終わった。
読まれたネームは、僕だけではない。他に少なくとも5本以上はあったと思う。
読んでいる間にも、編集長は忙しく他の仕事をこなしている。
あっと言う間に時計は夜中を回っていた。

気がつくと編集長の姿がない。
あれ、結果は出たのだろうか.............。
どうしたらいいのだろう、どっちにしろ帰らないと終電もなくなってしまう......。
しかし、結果も聞きたい。
困ってキョロキョロしていると、吉倉さんがやってきた。

おめでとうデビュー決まったよ。

もう、鼻血が出そうだった。
集英社への持ち込みから1年と数ヶ月目。
年明け、1982年発売の月刊少年ジャンプ冬増刊でのデビューが決定した瞬間だった。

それだけでも嬉しいのに、「もう、電車が無いので帰ります」と言うと、なんとタクシーを読んでくれたのだ。
その時受け取ったタクシーチケットの事由に「作家送り」と書かれていた事にいたく感激した事を
覚えている。