世の中は甘くない。 | 帯ひろ志の漫画放浪記Powered by Ameba

世の中は甘くない。

専門学校を卒業したあと、僕はアニメの背景スタジオに就職した。

就職と言えば聞こえはいいが、給料は採用された背景分と言う出来高制。
当然、背景初心者の僕に、採用される背景なんて中々描けるものではない。
最初の初任給は、1万5千円と言うお小遣いにも足りないと言う額だった。
しかも手取りは税金で10%取られて1万3千5百円。

オマケに就職した僕は、スタジオに近い場所にアパートを借りて一人暮らしをはじめたばかりだった。
家賃は1万6千円。

うーん、家賃にも2千5百円足りない。

実は、高校生の頃、バイトで買った中古車を所有していたので、そいつを売って、生活資金に
充てていたのだ。

就職2ヶ月目、給料は3万2千円に上がった。
3ヶ月目、4万5千円。
4ヶ月目、ついに6万円を超えた。
そのころには、仕事にもなれ、この調子なら給料が10万円を確実に超える.........そんな期待が僕の胸を躍らせた。

ある日、スタジオの社長がこう切り出した。
「良く頑張った。もう、そろそろいいだろう。これからは固定給にしてあげるよ。」

素直に喜んだ。
仕事がハードな割りに、休みも無く、没になれば描いた背景はその場で破かれる。
入っても三日で逃げ出すヤツも居ると言うその現場で、頑張りが認められたのだ。
しかし、給料日に夢は打ち砕かれた。

7万5千円..............?

出来高制で描いていた時は、一枚5百円だったのに、7万5千円?
その頃には、すでに月産300枚程度は描けるようになっていたのだ。
単純に計算すると、15万円になるのでは無いか?

正直、腹が立った。
しかし、まだ社長にものを申すほどの勇気もなく、甘ちゃんだった僕は、悔しさを飲み込む事しか出来なかった。
しかし、この事がキッカケで、また漫画を描こうと言う気持ちが沸々と湧いてきたのであった。