ケント紙を探せ。 | 帯ひろ志の漫画放浪記Powered by Ameba

ケント紙を探せ。

初めてのペンとちょっと前後するが、ペンを入れる原稿用紙を手に入れるのに苦労した思い出がある。

今の時代と違い、昭和46年当時には、漫画の原稿用紙なるものは売っていなかったのである。
そりゃ、存在しないものは売れないよね。当然だけど。

で、どんな紙を使えばいいのか、と言うと、「ケント紙や模造紙を使って」と、漫画雑誌の投稿欄には書いてある。
しかし、このケント紙や模造紙が、どんな紙なのか少年帯ひろ志にはさっぱり解らない。
近所の文房具店を2件ほど廻ったが、解らないと言う。
学用品とかを置いてある店だから、あるのはボール紙や画用紙などだ。

僕が困っていると、可愛そうに思ったのか、「そうだ、おばちゃん、この紙の名前知らないから、これがきっとケント紙だよ」
と、1枚の大きな薄くてヒラヒラする紙を取り出してくれた。
おばちゃんの言葉に、僕の心はときめいた。

これで、漫画が描ける!!

それ下さい!!
嬉しそうな僕の顔に満足したのか、「はいはい」と言ってその紙をくるくると丸め、僕に持たせてくれた。
じゃ、50円ね。
高い!
1枚で50円。さすがプロも使っているケント紙、並の紙とは格が違う!
と妙に興奮し、50円を支払い、意気揚々と岐路についたのである。
当時50円と言うと、発売が始まったばかりの缶ジュースと同じ値段だったと記憶している。
今で言うと、120円位と言う事か?

家に着いた僕は、早速その紙を広げた。
しかし、おばちゃんがくるくると巻いてくれたケント紙は、「くるくる」の癖がついてしまい、
何度伸ばしても丸まってしまう。
それならばと、逆巻きで癖を取り除こうと、巻いてみた。
しかし、あろうことか、無残にも折り目がついてゆくケント紙。
なんとか広げられた時は、あちらこちら折り目が白く目立つ「ヨレ」っとしたとても50円の価値があった紙には見えなくなっていた。
もう、半分泣きそうである。

しかし、ここでめげてはプロの漫画家になんて成れやしないと、自分に鞭をうち、原稿を
規定のサイズにカット。
約4枚ほどとれたと思う。

早速その紙に鉛筆で下描きをはじめてみた。

!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?

描き難い。
おまけに、消しゴムを使うと最悪で、消えるどころか鉛筆の黒墨をぐいんぐいん伸ばして行くではありませんか。

こんな描き難い紙に、漫画を描くなんて、やっぱり漫画家って凄い!!

おばちゃんが売ってくれた紙が、トレーシングペーパーであった事に気付くのは、ほんの少し後の事である。
号泣!!