初めてのペン | 帯ひろ志の漫画放浪記Powered by Ameba

初めてのペン

僕が、はじめてつけペンを使ったのは小学6年生の時だった。
兎に角、漫画を描く真似がしたくてしょうがなかった時だった。
ネームを描いて、下描きをして、それからペンを入れるなんて知らない頃だったから、
いきなり原稿用紙に下描きをして1ページ描き終わるとペンを入れるなんて事を
している頃だった。
まぁ、やってはいけない訳では無いが、プロになれば打ち合わせが必要なので
ほとんど通用しないやり方だ。
ま、それは置いといて、問題のペンだ。
下ろしたてのペンをインク壺にドプッと浸ける。
さあ、描こうと原稿用紙の上にペンを運ぶと..................。

ぼたっ。

ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。
そう、インクが垂れるのだ。
漫画を描き始めた初心者が、恐らくは誰しも遭遇するだろう最初の洗礼だ。
ペンにどれだけのインクを浸ければ垂れないのか解らないし、ましてや
下ろしたてのペンには錆止めにうっすら油が塗ってあり、インクを弾いて
垂らしているなんて、皆目検討がつかない。
そりゃ恐ろしい程のインク垂れまくり原稿の出来上がりである。
しかし、小学6年の僕はめげなかった。
漫画家入門に、ホワイトを使えと書いてあったからだ。
丹念に垂れたインクにホワイトを塗る。
一生懸命に塗る。一心不乱に塗る。
塗れば塗るほどホワイトが黒くなってくる。
もう、泣きそうだ。

やっと出来上がった原稿は、こんもりとホワイトの盛り上がった原稿だった。
そんな事を繰り返しながら、6ページも進んだ頃だろうか。
最初のページを描いて1週間程たったと思う。
こんもりと丘を築いたホワイトは、乾いてパリパリのヒビが入っていた............。
さらに、黒インクはいつの間にか退色して、赤茶ぽくなり、太陽の光にさらすと
なんとなくキラキラとして見えた。

キレイ.................。

そんな事言ってる場合じゃない!!
そう、使うインクを間違えていたのだ。
多分これは、万年筆のインクだったと思う。

さすがの小学生も、これは使えないと悟った。
更に、手入れを怠ったGペンは錆、クッと力を入れた瞬間に折れて先が飛んで行って
しまったのだ。

やっとインクが垂れなくなって喜んでいたのに..............。
こうして、初めて買ったペン先は無くなり、赤くなりひび割れたホワイトの原稿は
泣く泣くゴミ箱に埋葬される事になった。
苦い苦い、ペン入れデビューの思い出である。