【なでしこ乳腺外科】そのクリニックは自宅から車で10分もかからない場所にありました。

この近さは今も本当にありがたいなと、行く度に思います。

クリニックの前を通ったことは何度もありましたが、自分が患者として訪れることになろうとは思ってもいませんでした。

 

予約時間の30分ほど前に、実家から両親が自宅に来ました。

娘を連れて四人で病院に向かいます。

 

受付で、待合室から先には男性は入れないということを聞き、父は娘をクリニックの周りに散歩へ連れて行ってくれました。

母と待合室に入ります。

検査を受けた病院で予約をしてもらってはいましたが、病院はそれなりに混み合っていました。

30分ほど待って、まずはマンモグラフィーの検査を受けました。

さらに待ち時間を経て、次は超音波検査(エコー)をしてもらいました。

 

このクリニックは受付から看護師、検査技師も全員が女性です。

プロの医療従事者に性差はありませんが、病気の性質を鑑みたこの配慮は後の入院生活の中でも

非常に行き届いているという気がしました。

 

検査を終えましたが、待合室はまだ混雑していて診察まではしばらく待ちました。

 

娘は父と車に戻っていたようです。

生まれたときから今も、娘は大人しい性格で体調の悪いときなど、とても助かっています。

 

ようやく診察に呼ばれ、看護師が父を呼んできてくれました。

広くない診察室に四人で入ります。

 

院長 「初めまして、私が院長のNです。」

 

胸の名札を指し示しながら明るく自己紹介してくれたのが【なでしこ乳腺外科】の院長先生でした。

この先生は深刻ぶらずに、気軽な感じで話をしてくれる方です。

 

早速エコーで左の胸を診ていきます。

カーテンに囲まれた診察室の中のベッドに横になります。

カーテンの向こうに両親と娘、カーテンの中に私と医師と看護師。

 

手早く患部を診た先生は、

院長 「うん、ここだね。」

とつぶやくように言いました。

 

ベッドから下りて、先生と向かい合って座ります。

エコーやマンモグラフィーの画像を見ながら説明が始まりました。

 

院長 「この白いところが、悪い細胞です。広範囲に広がっているので、脇の下のリンパ節も含めて切除します。

    全摘出が望ましいですが、胸をどうしても残したいというこだわりが有れば、もちろん形は変わってしまうけど

    少し残すことはできます。」

 

私 「いえ、こだわりは有りません。」

 

いろんな方がいると思いますが、私は病気がわかったときから、胸を残すことは考えていませんでした。

胸を失うことよりも、少しでもリスクの少ない方を迷うことなく選びたいと思っていました。

 

父 「全摘出してください。」

 

普段、ほとんどのことに口出ししたことのない父が意見したことは、とても印象に残っています。

 

手術の方針は決まりました。

 

院長 「手術は11月2日にしようと思っています。」

 

驚きました。

検査をしたクリニックから連絡があった時点で私の手術の日はもう決められていたのです。

体の中に悪いところがあるというのは、分かってしまった以上は常に意識の中から消えることはありません。

だから私は早々に手術してもらえることがうれしかったです。

 

院長先生の病気についての話はここまででした。

 

その後は、笑いを交えた雑談のような会話がありました。

入院に当たっての心配事はないか、娘の年齢や名前、同行できなかった夫の仕事のこと、両親のこと。

 

後に他の患者さんから聞いたのですが、院長先生は患者さんが介護している親や、入院した際のペットのお世話まで

一緒に考えてくれたそうです。

 

診察が終わるころには、私たちは少し明るい気持ちになっていました。

これからが大変だとはいえ、方向性が決まったことは希望でした。

 

その日は看護師から入院についての説明を受け、病棟の見学をして病院を後にしました。