CTの機械はゆっくりと私の体の上を上下します。
誰も何もしゃべらないしんとした部屋に、機械の動きと共にウィーンウィーンと小さく音が響きます。
『なんだか生きてるみたい。』
ついさっき乳がん罹患という重大な告知を受けたばかりなのに、そのことに頭がついて行かず、ぼんやりとそんなことを思っていました。
機械が頭上で止まった気配がしました。
「じゃあ、体の中がよく見えるように造影剤っていう薬を流すからね。」
「気分が悪くなったら言ってくださいね。」
『はい・・・。』
造影剤とは、画像診断検査をより分かりやすくするために用いる薬剤全体を意味します。 CT検査、MRI検査などで用いられる造影剤は静脈に注射し、直接血管内に注入します。 |
いろいろな検査を何度も受けた今では、CTも造影剤も慣れっこになりつつありますが、
そのときは、言われていることの意味もわからないし何をするのか想像もつきませんでした。
ただ、気分が悪くなったら言えばいいのだろうと、任せるしかありませんでした。
点滴の針から造影剤の薬剤が流れてくるのを感じました。
左腕の針が刺さっている部分から、体がかぁっと熱くなってきます。
腕から肩、胸、腹部とどんどん暖かさが広がっていきます。
初めての感覚にびっくりしました。
もちろん違和感と不快感でいっぱいですが、気分が悪いというのとは違うかなと思い、黙っていました。
「大丈夫ですか?」
『・・・はい。』
なんだか声を出すのも恐る恐るでした。この状態が大丈夫なのかどうかも正直、わかっていませんでした。
体がお湯に浸っているような暖かさに落ち着いたところで、またCTが動き始めました。
さっきと同じようにCTが上下し、機械の動きが止まったとたんに造影剤が止められ、生理食塩水に切り替えられました。
あっという間に体の熱が引いていきます。
医師と検査技師が、検査室を出て行きました。
しばらくして点滴の針が抜かれました。
「大丈夫?起き上がれますか?」
『はい・・・。』
看護師に支えられながら起き上がり、CTの台から下りました。
体がふわふわしているような、でも重たいような初めての感覚でした。
「診察室に戻ってくださいね。」
誰もいない待合室を通り、診察室の扉をノックしました。