その産婦人科では妊娠中に検診を受けていました。

 

家から近いという理由で選んだそのクリニックは、何代もにわたって産婦人科を経営されており、地域では人気の医院でした。

幸い妊娠中は異常もなく、医師やスタッフの方も優しくて初めての妊娠でしたが穏やかに過ごすことができました。

妊娠30週の検診では医師に「よいお産をね。」と笑顔で送り出され、出産は実家に里帰りして地元のクリニックでしました。

 

医師が何人も常駐する大きな産婦人科で、検診に通っていたのは三年近くも前のことです。

当日もとても混み合っていて、二時間ほど待って診察室に呼ばれ、初めて会った医師との問診も一分もかかってなかったと思います。

 

「左の胸にしこりがあるのですが。」

「授乳中だね、乳房マッサージしよう。」

 

その後は、ベッドのある部屋で年配の助産師さんに20分ほど胸をマッサージしてもらいました。

午後二時に病院に着いてから二時間以上が経っていました。

娘はベッドに横になった私の右側に座り、その部屋のテレビで夕方のEテレを見ていました。

 

「このしこり、痛くないんですよ。だから悪い病気じゃないかと心配してたんです。」

「こんな大きいしこりで乳がんだったら、体の他のところもどっか悪くなってるし、こんな元気でいられないよ。」

 

助産師さんが笑いながら言ったその言葉を信じたかった。

 

自分に都合のいいことを信じたいのは誰も一緒だと思います。

でもその言葉を信じ、その言葉に逃げたことを後に心から後悔することになるのです。

診察のときに触診をしてくださいと、エコーを当ててくださいと、食い下がればよかった。

助産師さんはお産のスペシャリストだけど医師ではない。

 

すべては自分の責任です。