今はゆとり時代のように、学校教材からそのままのような問題もなく、問題構成も単純ではなくなりました。


 そのため、単純な形式でしか問題を解くことができない子たちが苦しんでいます。それは、全体の1割から2割もいます。その子たちは、やっても覚えることが本当にできないんです。




 勉強しなくても80点取れる子もいます。逆に、塾に通っているのに20点、30点という子がいます。普通の子が2~3回やればできることが、10回やってもできない。


できるようになったと思えば、翌日には忘れてしまっている。少し数字や形式が変わっただけで混乱してしまう。


 そのために、あきらめてさぼってしまうのです。その子たちは怠ける気ではないのです。本当にまじめに取り組んでいるんです。その子たちはそれでもできないんです。

 

 最近は「発達障害」も認知され始めましたが、実はそれ以上に苦しむ人たちがいるんです。それは「境界知能」と考えられる人たちです。

「境界知能」とは何なのか?
知能指数(=IQ)は、一般にIQ85-115が「平均的」とされています。
おおむね70以下は、「知的障害」の可能性が考えられる範囲です。
(※「知的障害」の基準は、自治体によって異なります)
その境い目にあたるのが、「境界知能」と呼ばれる領域です。


 その数は、統計学上は人口の約14%、1,700万人に上るとされています。



専門家によりますと、この中には、知能指数とは別の指標で発達障害と認められる人もいるということですが、「境界知能」「平均的とは言えないが、障害とも言えない」とされることが多いといいます。


このため、その“生きづらさ”に、周囲に気づいてもらうことができないまま、人生を過ごしてきた人が多くいるとみられるということです。

 

学校でも、学校生活に特別支障がないため、特別支援クラスには入れず、親も子も生活に支障があるわけではないため、普通クラスでみんなと一緒に生活させたい、生活したいと当然思っているんです。


 しかし、そのまま大人になっていくと、いろいろ支障が現れるようになります。普通の人からみたら、障がい者でなければ「なんでこんなこともできないんだ」となってしまうことが多々出てくるんです。

 

「境界知能」は社会の認識不足が問題

 医師として「境界知能」の人たちを診てきた青山学院大学・古荘純一教授は、「境界知能」は広く社会に認識されていないことが問題だと言います。


青山学院大学・古荘純一教授
「境界知能の人たちは、知能検査の結果だけでは知的障害とも発達障害とも診断されないため、教育や福祉の支援につながりにくいのです。また、自分自身も周囲の人も気づかないことが多々あります。こうした理解のなさが、当事者の人たちを苦しめてきました」

「境界知能」と考えられるAさんが求職活動中の採用面接で、ある企業の人事担当者から
『あなたが障害者だったなら、受け入れられたんだけど、そうじゃないとわかったので、雇用することはちょっと厳しいですね』って言われました」


その企業は、法律に基づいて障害者を雇用していましたが、「境界知能」のAさんは障害者に該当しないため、雇用できないと言われたのです。

 

負の連鎖”に陥っている可能性も

「境界知能」にあたる人たちが直面している困難に、もっと目を向けるべきだと訴えている専門家もいます。


立命館大学の宮口幸治教授は、児童精神科医として、精神科病院や医療少年院で勤務した経験をもとに、そこで出会った境界知能の子どもたちの実態を書籍にまとめました。


2019年に発行されて以来、70万部を売り上げ、「境界知能」に関心が寄せられるきっかけとなりました。


宮口さんが懸念しているのは、「境界知能」の人たちの間で、“負の連鎖”に陥っているケースもあるのではないかということです。

 

宮口さんが着目したのは、法務省が公開している令和元年の新受刑者の能力検査値のデータ。

境界知能に該当する人(IQ70-84)は、人口の約14%。

対して新受刑者の場合、「IQ70-79」だけで21%以上に上ります。

 

宮口さんは、次のような“負の連鎖”が起きていないか懸念しています。

『日常生活や勉強、仕事、人間関係などで困難を抱え、生きづらさを感じているにも関わらず、教育や福祉の支援を受けられずに社会的な孤立や経済的な困窮に陥り、罪を犯してしまうケースもあるのではないか。さらにはうつ病になって自殺をしてしまう、そういった悪循環も起きていないか』


立命館大学・宮口幸治教授
「境界知能の人たちの大多数は、社会規範を守って、普通に生活している。ただ、中には“負の連鎖”に陥っている人がいる可能性があり、そこにはしっかりと目を向けなければいけない」

こうした“負の連鎖”に陥らないために、何よりも重要なのは、「早期発見・早期支援」だと宮口さんは指摘します。

そのためには、「境界知能」や「障害」についての知識や理解が、社会全体に浸透していくことが欠かせないといいます。

 

早い段階から“認知機能のトレーニング”で改善を

「認知機能とは、見たり、聞いたりした情報を理解し、記憶する力のことです。国語や算数など学習の基盤になるこの力を伸ばすことで、伸びていく可能性があります。少しでも早くトレーニングを受ければ、改善する可能性は高くなります。出来ることが多くなると、自分に自信を持って成長していくことができます。周囲の人が、気づき、理解してあげることが大切だと思います」