吉田兼好がラブレターの代筆をした、という下世話な話がある。どこに書いてあるかわからなかったが、ついに発見。知っている人にはいまさら、ということではあります。
太平記、第21巻8.岩波文庫(三)、442ページ。
高師直が人妻に横恋慕して、
「文をやりてみばや」とて、兼好と云ひける能書の遁世者を喚び寄せて、紅葉重ねの薄様 の、取る手も燻ゆるばかりなるに、引き返し引き返し、黒み過ごしてぞ遣わしける。
ひそかに見ていると、届いたけれど女の方は開けもしないで捨ててしまっていた。
師直、大きに気を損じて、「いやいや物の用にたたぬ者は、手書きなりけり。今日よりして、兼好法師これに経回すべからず」とぞ怒りける。
まあ、代筆ではうまくいかぬぞ。