借金の返済が終わったときにはもう心身ともにボロボロでした。
毎日細切れの睡眠を何年も続けると思考能力がなくなってきます。
この頃に考えていたのは、チキンな私でも簡単に楽に死ねる方法ばかりでした。
借金という暗闇から一縷の光が見えたと同時に、新聞配達の仕事を住込みの学生アルバイトの方が休む日のみに変更をしていただきました。
本当はWワークをやめたかったのですが、本業のブラック企業だけでは低収入すぎてまた同じことの繰り返しになってしまいます。
そこで新聞配達による減収を補うべく、タウン誌配達のアルバイトを始めました。
2誌分でしたが、1誌は木曜日か金曜日のどちらかに配達、もう1誌は火曜日か水曜日のどちらかに配達という緩めの条件です。
タウン誌の配達はマンションの多いエリアを割り当てていただけたので、なかなか効率的に捌けていたと思います。
不定期の新聞配達とタウン誌2誌の配達で、だいたい月に3万円~5万円を稼ぐことができました。
トリプルワークと借金生活で身に付いた節約生活のおかげで、相変わらず年金は未納のままでしたが、副業での収入が少し多い月には貯蓄もできるようになりました。
そのまま時は流れて、ブラック企業も気が付けばとっくに勤続10年超の古株になり、40代も意識し始める年齢になってしまっていました。
たまにこなす事務所での電話応対や伝票処理作業を認めてもらって、ピッキング作業員から事務員へと職種が変わったものの、相変わらず時給は780円。
年数を増すごとに仕事も増えていきますが、時給も上がらず日雇扱いのまま。
大企業ですので数年で所長は異動になりますが、所長が変わるたびに社会保障を付けてほしい、少しでも時給を上げてほしい、年休がほしいと直訴しても叶いませんでした。
長年働いている間に新しい方もたくさん入ってこられましたが、私より後から入った方たちは時給が800円になり820円になり、と条件は少しずつですが良くなっていきます。
せめて社会保障は付けるべきでは?と思った私は、労働基準監督署へ相談をしました。
労働基準監督署では、そんな大企業なら組合があるでしょ?まずは会社の組合に相談しなさいと門前払いをされました。
日雇労働者が会社の組合に入っていると思うんでしょうか。
次に業界の〇〇労連のようなところに相談をしましたが、労働基準監督署と同じ対応をされました。
もう八方塞がりです。
ですが時代も少しずつ変わり、数年後には日雇から契約社員へと呼び方が変わり、社会保険や厚生年金に入れてもらえることになりました。
喉から手がでるほど欲しかった社会保障を手に入れたのです。
ところが今度は自己負担の社会保障費が重くのしかかります。
住民税も天引きされるようになり、ブラック企業での手取りは10万円を切ってしまうことも多くなりました。
朝9時から繁忙期には23時頃まで働いていましたが、残業割り増しどころか超過分の時給すら一切支給されません。
仕方がなく土曜日だけ休みを固定してもらい、パチンコ店でホールのアルバイトを追加で始めました。
もう働けども働けども、です。
アルバイトを増やすと同時に少しでも固定費を減らそうと、友人が探してくれた今のマンションに引っ越しもしました。
今までのアパートより1万円家賃が安いものの築年数が古く、管理会社はノータッチ、全て住人の自主管理で老朽化が進むと大家の一存で取り壊しの可能性もあり、そうなったらおとなしく退去をするという条件で保証人が不要でした。
低収入の私にとっては、固定費の1万円削減はかなり大きなウエイトを占めていました。
そうこうしているうちに、ブラック企業が一部の不採算事業を同業他社へ売却することが決まりました。
まさしく私が働いていた部門が売却対象となったのです。
今まで散々違法労働をさせられていましたが、長年働いているとある程度の愛着もあります。
事務へ職種変更をしてからは、お客様からも随分と可愛がっていただきました。
ですが、もちろんブラック企業はそんなことは一切考慮しません。
契約社員は全員売却先企業へと転籍することになりました。
その際の条件は、1日でも年休が残っている契約社員へは一律10万円を支給するというものでした。
え?年休あったの?何度も何度も取りたいと長年言い続けても聞き入れなかったのに・・・。
入院のときも年休を使わせてくれていたら借金まみれにならなかったかもしれない・・・。
もうメンタルがやられるどころの話ではありません。
売却先企業との面談では、雇用条件は全く変更がないと言われました。
すなわち時給も据え置きです。
後で知りましたが、売却先企業で同じ業務をしている契約社員の方々は時給900円でした。
事業売却で転籍をせずに退職した同僚も多くいましたが、辞めたとたんに生活が行き詰まる私は退職という選択をすることができません。
以前の会社ほどのブラックではないため、残業をすればきちんと割り増しで1分単位で支給、通勤費も全額支給され、転籍特典として入社日から10日の年休も付与されました。
おかげで平均で14万円ほどの手取り収入を得ることができるようになり、全ての副業を辞めることができましたが、あまりにも世間とかけ離れたガチガチの社風がどうしても受け入れられません。
すぐにストレスから円形脱毛症になり、全然寝付けない不眠症のような症状にも悩まされるようになりました。
転職を考えてハローワークへ行きましたが、私の学歴や非正規雇用でのキャリアでは応募できるフルタイムの求人なんてほとんどありません。
学歴不問の求人に絞って求人票を出してもらおうとしても、企業側がハローワークからの電話で応募そのものを断ってしまいます。
毎週ハローワークへ行っていたことで、すっかり馴染みになった窓口係の女性と少し世間話をするようになり、あるときにその女性からアドバイスをいただきました。
高校中退だと企業が受ける印象があまり良くなくて書類選考もしてもらえないから、そのハンディを埋めるような資格を取りなさい。
高卒認定試験でもいいけど、苦労して複数科目を取得しても今までの職歴はなかなか認めてもらえない。
せっかく長く同じ会社で働いていたのだから、どうせならその業界に必須で独占業務のある難易度が高めの資格を狙いなさい。
きちんとした相談ではなく立ち話レベルでしたが、私にはこのアドバイスが刺さりました。
そこで色々と調べて、ある資格に絞りました。
聞いたこともない資格でしたが、業界では必須の業務があります。
私が働いていた部門の事業内容とはかけ離れた、学歴も実務経験も不要で合格率が20%前後の国家資格です。
イメージとしては、今まで長年ツナ缶の製造会社で総務をやっていた人がふぐ調理師免許を目指すような感じです。
通信教育や専門学校もありましたが、費用が15万円~30万円ほどかかりとても利用できそうにありません。
ネットで資格の口コミを見てみても、ハードルの割りにコスパが悪い、知名度が低い、給料も特に良くないと評判は散々です。
それでも今の状況を少しでも良く変えたいと望んでいた私には最後の希望だと思えたのです。
お金のない私は迷った挙句、ホームページで公開されている過去問題を全てダウンロードして、ちんぷんかんぷんのままひたすら解くことを繰り返しました。
1年近く仕事の日は出勤前と帰宅後にそれぞれ2時間、休みの日は1日12時間。
テキストも購入せずにひたすら過去問題を繰り返す日々です。
5年分の過去問題を全て間違えずに答えられるようになって、ようやく受験申込をしました。
その結果、無事に1回の受験でその資格を取得することができたのです。
大げさかもしれませんが、人生挫折しか味わったことのなかった私には奇跡に思えました。
もう職場が苦痛で仕方のなかった私は、合格発表の翌日に晴々とした気分で11日間の年休届と退職届を提出しました。
ところがこれがゴールとはならなかったのです。
⑥へ続く