40年と少し生きてきた中で、
今でも大きく悔やんでいることが二つある。

二つとも今から13年ほど前のこと。

当時の僕はまだ前の人といた。
その人は着物が好きな人で、
仕事も着物屋さんで働いていた。

着物屋さんなので客は主に女性が多かったようで、
仕事から帰ると今日はこんな客がいたと話をしてくれた。

ある日こんな客がいたと話してきた。
なんでも
娘さんが芸能人をしていて、
うちの近くに住んでいる…

ミーハーな僕は『芸能人って誰?』と思わず聞き返した。

名前を聞いても全く知らない名前だ。

ネットで調べてみると
防災ポスターのモデルをしているのがわかったが、
他にドラマ出演や歌を出すなどの活動が見当たらない。

その芸能人の顔写真を見ても正直かわいいとは思えず…
なんや…売れてないんか…それに売れそうにないな…
となってしまった。

その客はよほど着物好きなようで、
かなり頻繁に着物屋に訪れるようになり、
訪れる度に娘さんの話をしてきたようで、
それを僕は伝え聞きしていた。

娘さんとは言っても、
その客の本当の娘ではなくて、
本当の母親は昔に亡くなっているらしく、
その客は継母のような立場とか。

しかし
義理とはいえ仲の良い親子のようで、
離れて住む娘に毎日電話をしていたらしく、
話した内容をいちいち着物屋に来ては店員に話していたようだ。

他に姉妹はいたようだが、
凄まじくワガママだという話しか聞いたことがなく、
話に出てくるのはいつも芸能人の娘さんのことばかりだった。

娘さんと喧嘩をした時には
『昨日は樹里ちゃんとケンカしちゃった…』
と悲しそうに愚痴をこぼす時もあったと聞いた。

当時の人とその客はプライベートでも会うようになり、
車の免許を持たない当時の人はその客が乗るローバーでよく一緒に出かけていた。

ある日のこと
僕が仕事から帰ると大量の冬服が置いてあり、
どないしたん?これ?と尋ねると、
その客の家に行った時にもらった古着で、
全て芸能人をしている娘さんが着ていたものとか。

もらったはよいが、
デザインがちょっと…らしく結局着ることはなく、
僕は数ヶ月後に全て捨ててしまった…
これが不覚の一つ目である。
僕が古着を持っていても変態なだけなんだけど、
凄まじくもったいないことをしてしまった気がしてしまう。
ヤフオクであの女優の古着だと売れば…つるかめつるかめ

そのうち
当時の人とその客に僕も加わり遊ぶようになった。

その年のクリスマスに
その客がクリスマスパーティーを開くから来て欲しいと誘われた。
芸能人の娘さんも来るからと言われ2人で行くと、
たしかに娘さんはいたけれど、
芸能人がクリスマスイヴにこんな田舎にいるとはよほど暇なのかと思い、
ロクに会話もせずにいた。
これが不覚の二つ目である。
サインもらったりツーショットの写真を撮ったり握手しておけばよかった…

それから数ヶ月後に僕と当時の人は離婚した。

悲しみの底に暮れる僕を励まそうと、
その客は僕を映画とかあちこちに誘ってくれた。

しかし
どこに行くにも着物で来るので一緒に歩くのが少々恥ずかしかったのを記憶している。

ある夜
飲みに行こうと誘われ、
地元の駅近くにある飲み屋で一緒に飲んでいた時のこと…

娘さんがドラマ共演者の浅野なんとかにいびられているらしいと
ビールをガバガバ飲みながら話していて、
かなり酔っていたその客に
『ちゃんと帰れるんすか?』と尋ねると
手を握ってきて『今夜一緒にいてもいいの』などと言ってきた。

この先のことはもう書くのはやめておこう。

こういうのは本当は秘しておいた方が良かったのだが、
思い出してしまい書いてしまった。

その客は娘さんが出演される映画のロケに保護者としてついて行くと言ってきて、
そこからはメールも電話もしていないし会ってもいない。

そのすぐ後に
NHKで『てるてる家族』が放送され、
のだめカンタービレも放送されたりして、
ついに娘さんは大河ドラマの主役を務めるまでになった。

今でも上野樹里さんをテレビで見かけると
当時のことを思い出す。

なんで古着を捨てたんだ?
なんでサインをもらったりしなかったんだ?