『私ね、もう子供を産めん身体なんよ』

それを聞いたのは今から20年前のこと。

彼女は当時21歳。
なんでも過去の男関係でそういう身体になってしまったらしい。

彼女は神戸の長田に住んでいた。
当時の長田は震災により壊滅的なダメージを受け、
復興へと踏み出そうとしたばかりの頃であった。

彼女の家も全壊し、
そこにプレハブの家を建てて母親と二人で暮らしていた。

周りはまだまだ瓦礫が片付いていない。

彼女と僕はとあるキッカケで知り合った。
互いの家は遠かったので、
普段の連絡はポケベルか家電話だ。

その連絡をきっかけにした会話の中で冒頭の言葉が聞こえてきたのだ。

その言葉を出したことで楽になったのか、
彼女は堰を切ったように自身の身の上話をしてきた。

僕の中で何かが目覚める。
彼女をなんとかしてあげないといけない。

恋愛とは違う使命感のような気持ちだ。

翌日からは電話で話すよりも会う方が早いと考え、
仕事から帰ると彼女の家へと毎日通うようになった。

ファミレスで話し込んだりカラオケに行ったり、
ドライブに行ったりとしたから毎日帰宅は午前になってからで、
寝不足の日が続いていた。

体の関係なんてありはしない。
ただただ彼女から出る言葉を聞いて涙を拭いてあげるだけの毎日だった。

泣いてばかりも辛いだろうからと、
週末の夜にはクルマで六甲山を攻めて楽しんでもいた。

六甲山に行くと山仲間が何人かいて、
いつも同じ場所でたむろしていた。

その仲間の中に
僕の走りの師匠としていた先輩がいた。

彼は漫画『頭文字D』の主人公に見た目も走りも生き写しのような人であった。

先輩について走っている時に彼女が言った。
『なぁなぁあの人むっちゃカッコええし、
むっちゃ速いやん。あの人彼女おるん?』
『いや…おらへんで。
多分今までもおらんかったんちゃう』
『よかったら紹介してくれへん?』

走り終えた時、
先輩に彼女を紹介した。

そこで提案
『よかったら横に彼女を乗せて走ってきたらどないです?』
助手席に女性を初めて乗せる先輩だった。

帰ってきた彼女に話を聞くと、
『むっちゃええやん…』
恍惚状態になっていた。
『先輩と付き合ってみる?』
二つ返事で『うん』という返事があった。
先輩にも『彼女どないですか?』と尋ねると、
照れながら『悪くないな』ときた。

帰りは先輩のクルマに乗ってもらって彼女の家まで送った。

その時
僕の中で閃くものがあり、
彼女の家の近くに散らばる瓦礫を集めて囲いのような形を作り、
彼女と先輩を呼び、
『二人に誓いを立ててもらいます。
先輩は彼女と恋人になることを誓いますか?』
『彼女は先輩の恋人になることを誓いますか?』

二人の頷きを確認した僕は
二人に軽くキスをしてもらった。

そこから熱い二人の世界が始まったのだけど、
二人が熱すぎて周りは近寄ることができなかった。

そして半年後に二人は結婚をする。

僕が二人に再開したのは、
結婚後二年ほど経ってからになる。

プレハブの家は立派な三階建ての家になっていて、
周りも家が建ち並んでいて、
誓いを立てた場所にも誰かの家が建っていた。

ピンポン♩
二人の家のインターフォンを押すと玄関が開き、
小さな子供を抱えた彼女が出てきた…

ん?あれ?
あれれれ!?
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画像は近所の中華料理店のメニューです。

なんで中華料理店にコーンスープが…
これもまた驚きだ。