読書日記 No.1
 

今日の読書
書庫にある本の中から、以前読んだ古い本を引っ張り出して読んでみる。

向田和子著 「向田邦子の青春」~写真とエッセイで綴る姉の素顔~
 向田邦子の末の妹さん、和子さんが姉の向田邦子を偲んで書いたエッセイ。

 

(ここから)

  何度読んでも泣かされるのが、「字のない葉書」だ。(中略)今では暗記してしまったほどだが、読むたびに涙が出る。

 (中略)そこには、戦時中、疎開する私に、父が自分宛の宛て名を書いた葉書をたくさん持たせ、「元気な日はマルを書いて、毎日一枚ずつポストに入れなさい」と言って疎開に出したときのことが書かれてあった。当時わたしは、まだ字が書けなかった。

 

  一週間ほどで、初めての葉書が着いた。紙いっぱいはみ出すほどの、威勢のいい赤鉛筆の大マルである。(中略)ところが次の日からマルは急激に小さくなっていった。情けない黒鉛筆の小マルは遂にバツに変わった。(中略)間もなくバツの葉書もこなくなった。

(「字のない葉書」)

 

 

エッセイを読んでいて、姉が何十年経っても、こんなにも鮮明に覚えていることに何より驚いた。

(中略)疎開からうちへ帰ってきたくだりである。

 

  夜遅く、出窓で見張っていた弟が、「帰ってきたよ」と叫んだ。茶の間に坐っていた父は、素足でおもてへ飛び出した。防火用水桶の前で、やせた妹の肩を抱き、声をあげて泣いた。私は父が、大人の男が声を立てて泣くのを初めて見た。(同上)

  

私がうちに帰ってきた時、父が泣いたということは覚えていない。(中略)エッセイを読み終えて、同じことを覚えていても、姉は感じ方がずいぶん深いのだなと、涙がとまらなかった。