第二章6話「高山祭り」
高山滞在三日目、いよいよ高山祭当日である。
この日は旅館のお手伝いは無し、高山祭を見学すると同時に、歴史や風土を学んでレポートにまとめる材料としなければならない。
林出修がここでも水を得た魚のように話をしているが、さすがに祭りそのものが凄いこともあり、抑え気味ではある。
市中には、祭りを彩る十二の鮮やかな屋台。
神輿を中心に、獅子舞や闘鶏楽、裃姿の警固など、街を廻る総勢数百名の大行列。
昨日までと全く異なる高山の街の様相に、アキの心は浮き立っていた。
「やっぱりお祭りは楽しいね!」
昨日の疲れもどこへ行ったのやら、笑顔で祭りを見学するアキ。
初日は制服、二日目は手伝いのため旅館の制服を借りたりしたが、三日目のこの日は高山際の見学ということで一日私服である。
アキはカットソーの上に暖かいマウンテンパーカ、ボトムスは動きやすくアンクル丈のデニムのパンツ。七瀬はシンプルなオフホワイトのシャツとロングカーディガンに、ベージュのパンツをあわせていた。
「七瀬、白いシャツだと汚しちゃうよ」
「私はアキみたいに食べ方が下手じゃありません」
二人はみたらし団子を食べながら街の様子を眺めていた。高山のみたらし団子はしょうゆ味で、甘くない。
「てゆうか、本当に凄い人だね。これじゃあ身動きとるのも一苦労だわ」
団子の最後の一つを口に頬張りながら、七瀬は言った。その七瀬の視線の先、大勢の観客に見守られる中で実施されるは、メインイベントでもある「からくり奉納」。ワールドワイドな観光地らしく、日本語だけではなく英語、スペイン語など様々な言語で案内放送が流されている。
からくり人形の動きは見事なもので、柔らかな手や頭の動きはそれこそまるで生命が宿っているかのよう。
アキも七瀬も、もはや課外実習のことなど忘れて楽しんでいた。
その様相が変わったのはしばらくしてのこと。
「――――ねえ、穂波、見ていない?」
途中で出会った優奈にそう尋ねられた。
「穂波さん? 特に見ていないけれど」
「これだけ人が多いと、一度はぐれると見つけるのは難しいわよね」
「はぐれたんじゃない。穂波のやつ、わたしの目を盗んでどこか行ったんだ」
「えー、考え過ぎじゃない?」
「だったらなんで、携帯にも出ないのよ」
苛々したように言う優奈に、アキと七瀬は顔を見合わせる。それでも、さほど深刻に考えることはなかった。
「騒がしいし、気が付いていないんじゃない? マナーモードにしているかもしれないし」
「それなら良いんだけど……」
綺麗な茶髪を掻き毟る優奈。
そんな優奈と同様の不安をアキ達も覚えるようになるのに、さして時間はかからなかった。
集合時間になっても穂波だけが姿を見せなかったのだ。
第二章第6話 終