トオマス・マン 「悩みのとき」なぜなら、この利己心より更に深いところには、 やはりなんといっても、なんかある高きものに仕えて、 もとより酬いは思わず、必然に迫られつつ、 無視無欲に自己を消耗し犠牲にしているという意識が、 動いているからである。 そしてこの高きものを求めんとして、 自分より深く悩んだことのない者は、 何人といえども自分より偉大にはならぬように、 というのが彼の嫉妬の気持ちてであった。