せいしゅん回顧録 遥かなるアメリカ vol. 17

 ここに赴任する2か月ほど前、僕は会社からの帰り新宿駅で途中下車し、
駅近くの紀伊国屋書店に立ち寄ってJALシティガイドマップのニューヨーク
編を1冊購入した。

 下宿に帰って早速その地図を眺めてみた。表紙にはマンハッタン周辺
だろうか巨大なハイウェイ網が台地に張り巡らされ、インターチェンジは
まるで耳管のようにぐるぐると弧を描き、空撮されたハイウェイの写真
というより幾何学模様のオブジェを並べたまるで絵のようだ。

 この地図は、ニューヨーク(New York)といってもNY州全土でなく
マンハッタン(Manhattan)を中心にクイーンズ(Queens)、ブルックリン
(Brooklyn)、ブロンクス(Bronx)、それに会社や下宿のある隣州の
ニュージャージー(New Jersey)の一部が掲載されていた。

 地図には不思議な力がある。それは、この地図に限らず、たった
一枚の紙を眺めながら”旅の世界”に入り込めるからだ。

 数か月後は、マンハッタンの5番街(Fifth Ave.)を歩いている~メトロポリ
タン美術館で絵画を観ている~ウェスト・サイド・ハイウェイを車で走って
いる~それぞれの自分をイメージしていた。
 
 ワクワクするような期待感、アメリカという”姿が見えない巨大な物体”に
立ち向かっていく恐怖感や不安感、これから始まるアメリカでの生活に
思いを巡らせていた。


 時刻は12時10分前、そろそろ寝る時間だ。僕は12時前には必ず就寝の
準備をし、FM東京(現在のTokyo FM)の"JET STREAM”を聴くことを
日課としていた。
 この番組は僕にとって睡眠のサプリメントとしての役割をいつも担って
くれていた。

 ミスターロンリー(MR. LONELY)のテーマソングが流れ、2ウェイ・
スピーカーの左側から飛行機の爆音が聴こえ、やがてそれは
右側へ移動し消えていく。深夜便の飛行機が滑走路をまさに離陸して
いく様はステレオ放送を通じその臨場感がしっかり伝わっていた。

 『遠い地平線が消えて、ふかぶかとした夜の闇に心を休める時~』
城 達也のナレーションも良い。

 アメリカ映画の慕情のテーマ曲”追憶”(The Way We Were)のなかで
紹介される詩が、僕は特に気に入っていた。

 『ニューヨークに王手をかけることは、世界に王手をかけることだか
らな。Tシャツに透けるアバラ骨をささえていた、君の野心。
 秋になればソーホーの画廊の、広い壁画や、まっさらな床板に、
たっぷり毒を盛って、人の目を驚かせてやるのだと、~』(堀口茂男作詞)

 これはありきたりな言葉の羅列でなく、ハットするような新鮮で、斬新な
言葉が並んでいる。とても衝撃的だ。

 自由な国アメリカという巨大社会に臆することなく、しっかりとそこに
身を置き生きていく覚悟、巨大都市ニューヨーク(愛称:Big Apple)で
この人生を駆け、やがてビッグアップル(富や成功などの象徴とも言わ
れている)を射止めてやろうとする野心、などだろうか。

 これらは、自分の気持ちと重なり合う部分もあり、餞の応援歌でも
あった