医療法人オーク会 不妊ブログ|体外受精、卵子凍結など生殖補助医療を専門に診療しています
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ブログ移転のお知らせ

いつも当ブログにお越しいただき、ありがとうございます。

「医療法人オーク会不妊ブログ」は、下記に移転させていただくことになりました。
過去の記事も移行しています。
今後は、新ブログをご確認ください。
アメーバブログは、2020年11月20日に閉鎖予定です。

新しいURLは以下の通りです。
https://www.oakclinic-group.com/blog/

これからも弊院ブログをどうぞよろしくお願いいたします。

医療法人オーク会

保険診療のルールについて知っておいていただきたいこと

医師の田口早桐です。

「毎月高い保険料を払っているのだからできるだけ保険を使ってほしい。」というお気持ちはよく分かります。我々も、受診される方の負担をできるだけ少なくしたいという思いでおります。

医療者側としては、保険診療を行うためのルールがあり、保険請求できる項目と出来ない項目があります。請求するに際しての条件も細かく決められています。これは、医療費の7割程度が税金でまかなわれる以上、厚生労働省中央社会保険医療協議会によって、公平を期するために定められたものであるので、当院としては、特に異を唱えるところではありません。

患者さんの訴えの内容や所見記載の内容の記載が少し違えば、「保険の不正請求」と判断されますので、保険請求可能な症状、診断が得られない場合は保険にての算定はできません。

一般不妊治療(タイミング法や人工授精の周期)に関しては、とくに保険算定のルールが曖昧であり、保険算定できるものと自費でなければ認められないものが混在しています。さらに2年毎の改定で、算定ルールも変わります。

曖昧なものに関しては、当院独自で診療報酬支払基金等に問い合わせを行い、確認の上で可能であれば保険で請求させていただきますが、もし患者さまが納得いかない場合は、患者さまご自身で電話等で確認いただくことをお願いします。承認した担当部署、担当者が明らかな場合のみ、算定することが可能です。

一般不妊診療におけるルールの一部を例示します。

排卵誘発剤使用時は投与後の卵の成熟度検査として1周期に3回程度とする。またHCG注射のみ使用の場合は2回まで。(産婦人科社会保険診療要覧 令和2年6月版p.105~106)

LH定性(尿)は排卵時期の決定のために1日2回1周期6回まで認められる。持ち帰り自己判断での算定は認められない。(産婦人科社会保険診療要覧 令和2年6月版p.101)


卵胞期後期でのプロゲステロンの上昇が内膜や発育卵胞に及ぼす影響

医師の田口早桐です。

Late follicular phase progesterone elevation during ovarian stimulation is not associated with decreased implantation of chromosomally screened embryos in thaw cycles
Human Reproduction 8月号から

体外受精で排卵誘発をする際に、誘発して卵胞が発育してくると採卵前からプロゲステロン(以下Pとします)が上昇する例があることが知られています。以前は新鮮胚移植がよくされていたので、Pの上昇が妊娠率を下げることが示唆されていました。その機序は、上昇したPによって、子宮内膜の受容性が下がるからではないかと言われていました。

現在は、あまり新鮮胚移植をすることはありません。過排卵刺激をして複数の卵胞発育がある場合、卵巣過剰刺激症候群を避ける目的で、新鮮胚移植を避けて全胚凍結することが多いですし、海外ですと特にPGS(preimplantation genetic screening=胚の染色体検査)をしてから移植することが多いので、なおさら全胚凍結が多くなります。

ご紹介する論文は、卵胞期後期でのP上昇は、果たして内膜のみに悪い影響があるのか、発育卵胞に対しての影響はどうなのかを調べた論文です。

結論から言うと、P上昇による胚への影響は認められませんでした。Pが上昇しなかったグループと上昇したグループ(2.0ng/ml以上:全体の4%程度にプロゲステロンの上昇がありました)とで、胚盤胞到達率、染色体正常率を比較し、とくに差を認めなかったのと、それらの胚を移植した際の妊娠率や着床率にも差を認めませんでした。

Pの値をさらに細かく5段階に分けて比較しても、やはり各群間での差はありませんでした。極端にPが高かったとしても、あまり影響はないようでした。(最初、極端にP値が高い例での着床率低下がありましたが、サンプル数が極端に少ないことと、他の要因を考慮して確認したところ、差がないという結論になっています。)つまり結論として、排卵誘発中のPの上昇は、胚の質に影響しないということが、明らかになったと言えます。

黄体期からのランダムスタートや、MPAを排卵抑制に用いた排卵誘発などで、Pが高い状態での誘発を最近はよく行います。今回の論文は、それらのプロトコールに安心を添えるものになると思います。

ホルモン補充周期と自然周期の、SCH(胎盤後血腫)の発生頻度への影響

医師の田口早桐です。

Comparison of subchorionic hematoma in medicated or natural single euploid frozen embryo transfer cycles
Fertility Sterility  7月号より

凍結胚の融解胚移植によって妊娠が成立したあと、胎盤後血腫(SCH:subchorionic hematoma)といって、着床部位で胎児部分と胎盤の間が剥がれかけた状態になることが、自然妊娠と比べて多いといわれています。

この論文では、凍結胚の融解胚移植をホルモン補充周期で行った場合と自然周期で行った場合とで比較し、その違いがSCHの発生頻度に影響するかどうかを調べています。
また、SCHの発生が、周期中のエストロゲンの値に関係するかどうかも調査しています。

対象は、1273周期で、すべて、染色体正常胚(着床前スクリーニング済ということ)を単一胚盤胞にて移植しています。アメリカでの後方視的研究です。内訳は、自然周期213周期、ホルモン補充周期1060周期です。やはりどこでもホルモン補充周期のほうが多いようですね。

結果は、自然周期に比べてホルモン補充周期のほうがSCHの発生率は高いという結果だったそうです。また、その発生に、エストロゲンの値は関係せず(ホルモン補充周期のほうが一般的に自然周期よりも移植前のエストロゲン値は高くなる。)、また、幸いなことに、SCHが起こったことによって流産につながったという明らかな関連性もなかったようです。

なぜホルモン補充周期でSCHが多かったのか、この論文では明らかになっていないし、とくに何かの示唆もされていないのですが、最終的な流産率の増加にはつながらなかったようなので、良かったです。

論文のなかで、SCHの程度(大きさや部位)、出血をともなっていたかどうかに関して詳しく述べられていません。また、SCHが見つかれば、当然のことながら安静にするでしょうし、ときには入院加療や止血剤の投薬などもすると思うので、その辺の介入が流産率の増加に繋がらなかった要因なのかもしれません。だとすれば、頻回の超音波検査によるSCHの観察や安静指示がとても有効ということになります。

凍結胚の融解胚移植、ホルモン補充周期の比較に関して様々な論文が出ているなかで、また当院のデータでも、とくに成績に明らかな差はないようです。だとすれば、日程の調整ができるホルモン補充周期を選択する人が圧倒的に多いという傾向は変わらないと思います。



FSHの量が卵子の質に影響するか

医師の田口早桐です。

Total follicle stimulating hormone dose is negatively correlated with live births in a donor/recipient model with fresh transfer: an analysis of 8,627 cycles from the Society for Assisted Reproductive Technology Registry
Fertility Sterility 誌でのin press (オンライン版)論文から

刺激周期で、卵巣刺激のための注射の量(ここではとくにFSHの量に注目しています。)が多いと、卵子の質に影響するかどうかについての論文です。

SART(アメリカでのART登録)データベースからの後方視的調査です。

卵子ドナーからの採卵、受精を経て、レシピエント(依頼者)に移植をする、というプロトコールで、卵子ドナー8627人に対する調査となっています。

卵子ドナーの平均年齢は25歳、平均FSH投与日数は16日、平均総FSH投与量は2350IU、一日あたりFSH投与量平均153.8IU。
その結果、平均採卵数21個、平均受精数10個、移植以外に凍結できた数(平均3個。38%で凍結まで可能、凍結は83%が胚盤胞での凍結でした。

結果として、妊娠率66%、生産率66%、流産率13%でした。ドナー卵子なので、やはりこのくらいだと思います。

周期全体での総FSH量、投与に要した期間(日数)、1日あたりの投与量、この3つのパラメーターが、妊娠率、生産率、流産率に影響するかどうかを計算しています。

結論としては、総FSH量が多いと、妊娠率と生産率が下がる、という結果が出ました。FSH総量が500IU増えると、オッズ比で妊娠率も生産率も3%減少。ただし流産率には影響しませんでした。ほかの2つのパラメーター、投与日数と1日当たりの量は、いずれにも影響を及ぼしませんでした。

著者は考察のなかで、推察される理由について、あまりはっきり述べておらず、「多分染色体や遺伝子などに対する影響というよりはエピジェネティック(遺伝子周辺の環境)なものや、未知の変化がかかわっているのではないか」と書いています。

これまで、FSH総量が多くなると妊娠率が下がる、という論文はいくつか出ていて、その中でピークのE2値が高いと卵子の質に影響する、ということが述べられているものもあります。受精卵の染色体異常率が増える、という報告もありますが、その一方で増えないという報告もあります。

何が影響するのか、またそもそもFSH投与総量が卵子の質に影響するのかどうか、まだまだ結論は出ていないと思われます。が、FSH投与総量が多くなってしまうということは、卵巣の機能面でいうと、反応が鈍い、つまり、働きが悪いと言えます。その広い意味での卵巣機能の悪さが、卵子の質に影響している可能性は否定できないと思います。曖昧ですが、そんなところです。

ERA(子宮内膜着床能検査)の臨床効果に関する国際共同臨床研究(ランダム化比較試験)の結果

医師の田口早桐です。

ERA(子宮内膜着床能検査)の臨床効果については、日本では弊院が先駆けとなり、逐次、国内外の学会などで成果を報告してまいりました。
その1端は、下記のように全国紙などでも紹介されてきました。
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20180219-OYTET50056/

しかしERAの真の臨床効果については、 ランダム化比較試験の結果を待たざるを得ず、その結果は世界中の患者様及び専門家の間で待ち望まれていました。

弊院のスタッフ医師を含む国際共同臨床研究 (ランダム化比較試験 )の成果が、下記の査読つき英文論文誌に出版されたことで「ERAは不妊治療に有用か?」に関するお答えをさせていただくことが可能になりました。

論文; 掲載誌 Reproductive BioMedicine Online
タイトル:A 5-year Multicenter Randomized Controlled Trial of In Vitro Fertilization with Personalized Blastocyst Transfer versus Frozen or Fresh Transfer

論文の全文は、下記にて、無料で、お読みいただけます。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1472648320303199

日本からは弊院のみ参加、私と船曳美也子医師の2人のみが上記論文の著者として貢献しています。

それでは、下記にて結果を簡単に紹介させていただきます。

今回の研究では胚盤胞移植をともなう不妊治療を受けておられる37歳以下の458名の患者様が対象となっています。彼らは、ERA群、凍結融解胚移植(FET) 群、新鮮胚移植(ET) 群のいずれかに割り付けられ、着床率、臨床妊娠率、流産率、出産率などが比較検討されました。

その結果、まず、 ITT解析(治療意図の原理に基づく解析)において、最初の胚移植における累積臨床妊娠率は、ERA群が93.6%とFET群よりも14.6%有意に改善しました。ただし残念ながら、累積出産率についてはERA群が62.4%、FET群が55.4%と統計的に有意な改善は見られませんでした(ただ、いわゆる臨床的有意差は、ありそうです)。

しかし、Per protocol analysis(治験実施計画書に適合した対象集団についての解析)においては、最初の胚移植における累積臨床妊娠率は、ERA群が95%とFET群よりも24.4%有意に改善し、累積出産率 についてもERA群が71.2%とFET群よりも15.8%有意に改善しました。

こうした結果の場合、ERAは累積臨床妊娠率向上効果を有するだろうし、ERAによって累積出産率向上も期待できると解釈できます。ただ、現時点では今回の主任研究者のSimon教授も指摘されたように、 今回の研究の参加患者の脱落率の多さなどを考慮すれば、「ERAの潜在的な臨床効果が確認された」と言うのが妥当でしょう。

患者様のご期待に応えられる可能性が以前よりも増しましたが、更なる研鑽が必要なのは言うまでもありません。たとえば、今回の研究では、3群とも、PGT-Aについては、それぞれ3人から6人にしか行われておらず、今後のERA+PGT-A戦略によって、さらに流産率の減少と出産率の向上が可能になるのではないかと期待しています。ちなみに弊院は、日本のPGT-A臨床研究の学会認定機関でも、あります。また、今回の研究では対象外だった、もう少し高い年齢層(37歳以上)では、どうなるのかという検討も今後の課題です。

なお、いくら最大級の科学的証拠を得られるランダム化比較試験とはいえども、1つの論文で最終結論を見出せず、複数の同種レベルの試験でも同じような結果が得られる必要があります。その点、中国でも同種の研究が進行中であり、結果が待ち望まれます。また、今回の臨床的結果を支える新たな基礎研究(なぜ、ERAによって不妊治療の臨床効果があがるのか)も、近いうちに論文として出される予定です。

最後に、今回の研究は、長年にわたる、研究者、スタッフ及び参加協力いただいた患者様の尽力による成果です。

この場を、借りて、深く御礼申し上げます。

住吉外観

トリガーにGnRHを使用した場合の卵子の成熟

医師の田口早桐です。

The use of GnRH-agonist trigger for the final maturation of oocytes in normal and low responders undergoing planned oocyte cryopreservation
Human Reproduction 5月号より

トリガーは、採卵35~6時間前に育った卵胞を最終成熟させるために使う薬です。通常、HCGという注射を使いますが、卵巣を刺激する作用と黄体を賦活する作用が強く、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)を悪化させます。HCG以外に使うのがGnRHa製剤で、当院では点鼻スプレーを使用します。HCGに比べ半減期が短くて、卵巣を過度に刺激しませんのでOHSSの悪化が防げます。

使い分けとしては、当院では、卵巣に多くの卵胞が育てば育つほど、HCGを避けて点鼻薬をトリガーに使います。HCGの量も卵胞数に従って調整しています。

通常HCGを避けてGnRHaを使用するのは卵胞が多く育って卵巣過剰刺激症候群のリスクが高いときです。卵胞からはE2(エストロゲン)が分泌されますから、E2値で卵巣がどのくらい刺激に反応しているかわかります。著者の以前の分析で、E2>3000pg/ml(とてもOHSS傾向のときとそこまででもない場合)で、成熟率に差がないことが分かりました。

今回の論文は、逆に卵巣の反応が正常~低反応の場合において、GnRHでの卵子の成熟率はどのように違うかを調べています。

ちなみに、新鮮胚を移植するときは、GnRHaのみ使用した場合は、黄体賦活作用が少ないので、HCGを使用したほうがよいといわれていますが、この論文ではすべて、凍結していて、単純に卵子の成熟率のみを比較しています。

結果として、症例全体の成熟率から考えて、E2の値が1000以下の場合は、それ以上の場合に比べてやや成熟率が劣る傾向にあるものの(有意ではない)、それ以上だと、1001~2000、2001~3000、3001~4000、4000以上、すべてほぼ同じでした。

結論としては、OHSSでない場合でも、GnRHaトリガーによる成熟卵獲得は、卵巣の反応の強弱とは関係ない、ということになります。

では、発育卵胞が極端に少ない場合(3個以下とか)には、全体よりやや成熟率が低かったですが、HCGを使用したほうが無難ということになるのでしょうか?当院でも、そのような場合は卵子が貴重で少しでも多くの卵子を回収したいし、OHSSのリスクがないので、積極的にHCGを使用します。

しかし、この著者によると、発育卵胞の少ない症例においては、HCGを使用してもGnRHaを使用しても、成熟率はやや低い傾向にあり、差は見られなかったとのことで、卵巣の反応不良の場合は、卵子の成熟にも問題があることが多いのかもしれないということが示唆されました。

IGF-1(インスリン様成長因子)と体外受精周期の卵巣の反応との関係

医師の田口早桐です。

Cycle day 2 insulin-like growth factor-1 serum levels as a prognostic tool to predict controlled ovarian hyperstimulation outcomes in poor responders

Fertility Sterility 6月号からの論文です。

今、体外受精周期の卵巣の反応を予測するためには、月経周期3日目あたりのFSHの値と超音波で卵巣内の小卵胞の数を数えて目安にすることも多いと思います。この論文では、月経周期2日目のIGF-1 (insulin-like growth factor-1/インスリン様成長因子/全身の細胞にあって、成長ホルモンの働きを助けます。) という物質が、Poor responder(卵巣の反応が悪い人/あまり卵胞が発育しない人)の体外受精周期での卵巣の反応を知る指標になる可能性を示唆しています。また、周期前にエストロゲンを使用することで、2日目のIGF-1の値が下がり、採卵数が2倍に増え、受精率や妊娠率もその増加につれて上がった、という報告をしています。

後方視的調査で、まず、体外受精に対する発育卵胞数や採卵数を3グループに分け(低反応(4個以下)、正常反応(8∼12個)、高反応(18個以上))、それぞれの月経周期2日目のIGF-1を比較したところ、低反応グループでは、非常に高い値になっていました(正常反応の2倍、高反応の3倍)。

興味深いのは、低反応のグループをつぎに周期に入る前にエストロゲンを使用してみたところ、周期2日目のFSH値もIGF-1の数字も半分以下になり、正常反応群と変わらない値になりました。その結果、採卵数が2倍に増えたとのことです。卵子の質に関しては、受精率(2PN数)や移植可能胚数が採卵数の増加とともに増えたということは、とくに質に影響がなかったことを示唆しています。

一般的に、低反応の人に対して、周期3日目前後のFSH値を指標にする際、10以下であれば問題なしとすることが多いと思います。この論文では、低反応のグループの場合でも平均8.8 mIU/mLとあまり高値ではありませんので、通常ならふつうに排卵誘発することになると思います。しかし、IGF-1は平均107 ng/mLと、高値。こちらを指標にすると、反応が期待できないことになります。この論文によるとIGF-1が72以上は低反応の指標となるようです。つまり、FSHがさほど高くなくても、IGF-1が高い場合はエストロゲンでIGF-1を下げてから誘発を開始したほうがよい、ということになりますね。

乳がん治療前の卵子凍結

医師の田口早桐です。

Efficacy and safety of controlled ovarian stimulation using GnRH antagonist protocols for emergency fertility preservation in young women with breast cancer—a prospective nationwide Swedish multicenter study
Human Reproduction 4月号からです。

乳がんの診断を受けてから、乳がん治療の開始までの間に、卵子凍結をする例が増えています。当院でも最近では乳腺外科から紹介を受けることも増えています。

乳がんの治療が卵巣に影響して、排卵がおこらなくなる可能性があります。若年で乳がんと診断され、治療が奏功することが増えていますので、乳腺外科の医師も、患者さんの治療後の人生の選択肢に対する意識を持つようになってきたことも関係していると思います。

当院で乳がんの方の卵子凍結をする場合のプロトコールとしては、下記になります。

1、できるだけ短期間に多くの卵子を採卵したいため、基本的には刺激法。

2、刺激の際に、エストロゲンの上昇を抑えるためにレトロゾールを併用する。

3、期限が迫っている場合は、ランダムスタートにする。

4、未熟卵が取れた場合、体外培養によって成熟させて凍結する。

今回紹介する論文は、スウェーデンの論文です。乳がん治療前の卵子凍結に関しての論文で、下記の検討をしています。

1、レトロゾールの併用は、採卵数、受精卵の凍結数、患者の予後、に関係しているか?

2、トリガーにGnRHaを用いるのと、HCG注射を用いるのとでは、どちらが効果的か?

3、ランダムスタートは、通常の月経開始からのスタートに比べてどうか?

結論としては、

1、レトロゾールを使用したほうが刺激の日数が長くなる傾向はあったものの、採卵数、凍結数、予後、に有意な差はなかった。成熟卵子数はレトロゾール使用でやや低い傾向があった。

2、トリガーはGnRHa(点鼻スプレー)のほうがやや採卵数、凍結胚数が多いという結果でした。ただし、OHSS傾向にあって発育卵胞数が多いほうがGnRHaをトリガーに選択することが多くなるので、その要因を調整して検討すると、採卵数は差がないという結果になりました。が、凍結胚数は依然としてGnRHaのほうが高いという結果になりました。

3、ランダムスタートに関しては、採卵数も凍結胚数も、通常の月経開始からのプロトコールと全く変わらないという結果になりました。刺激を開始するのが黄体期の場合、むしろ成熟卵子数が増えた、という結果にもなりました。

感想としては下記の通りです。

1に関して。使用の一番の目的である予後に対しての影響は、刺激をする期間が短い期間なので、エストロゲンの上昇を抑えることがそれほど大きく作用しない可能性はあります。少なくとも採卵数や凍結胚数を損なうことがない以上、理論的にはとくにエストロゲンレセプター陽性の乳がんに対しては、レトロゾールを使わない理由はないであろうと考えます。 

2に関して。我々の印象としては、内因性のLHサージを誘発するGnRHaよりは外因性のHCG注射のほうが卵子の成熟を促す効果は強いと感じています。ただし、この論文のなかで、最終的に調整して検討しているものの、GnRHaをトリガーに選ぶという段階ですでにその症例はOHSSのリスクがある、つまりかなり発育卵胞数が多い=卵巣機能がよい、ということになりますので、凍結胚数が多かったという背景には、それがまだ影響している可能性はあると思います。

3に関して。ランダムスタートは年々増えていますし、乳がん以外の症例でもよく行っています。通常の開始に比べて全く遜色なく、むしろ論文にあるように、黄体期から始めるほうが良いという印象も得ています。また、連続周期採卵もランダムスタートと合わせて行って、できるだけ短期間に多くの卵子を確保するということが可能になります。

我々がある程度感じていたことと、この論文の内容は概ね一致しています。トリガーに関しては、やや違う印象をもっていますが、今後まだまだ症例も増えて検討がなされると思いますので、期待したいと思います。


PCO(多のう胞性卵巣)の方の手術時IVM(体外培養)採卵

医師の田口早桐です。

Enhancing the scope of in vitro maturation for fertility preservation: transvaginal retrieval of immature oocytes during endoscopic gynaecological procedures
Human Reproduction 4月号より

この論文では、PCO(多のう胞性卵巣)の方が婦人科の疾患で腹腔鏡などの手術を受ける際に、とくに排卵誘発などせずに膣から採卵します。当然、HMGなどの注射も打っていないので未熟卵を採取することになります。手術のために麻酔はかかっているので、痛くはないし、もし卵巣から出血などしてもすぐに止血できます。

採卵した卵子は、IVM(In Vitro Maturation/体外培養)をして、成熟卵になったら(成熟率は47%程度)、①卵子で凍結→後に受精させて移植(D3移植)②当日受精(顕微受精)→新鮮胚盤胞移植、の2つのグループにわけて、それぞれの臨床妊娠率と生産率を比較しています。

158名の手術時IVM用採卵(ここではIVM- surgeryと名づけています)の患者さんの内、46名は上記②のグループ 33名は①グループになりました。(卵子凍結だけして移植しなかった人も多いです。)

全体(①と②)をあわせてみると、採卵周期あたり妊娠率は9.5%、生産率は6.9%でした。①グループの人も②に対して胚の状態はとくに劣っていませんでした。卵子凍結でも問題ないということがいえます。

移植あたりの臨床妊娠率と生産率は、①28.6%、19.1%、②69.2%、53.8%となりました。

卵子凍結した①のグループの成績が悪いように見えるかもしれませんが、①はD3移植②は胚盤胞移植です。

そう考えると、通常の体外受精の成績と比べ、未熟卵から体外成熟させた卵子であっても、充分な成績が得られているということが分かります。

ちなみに、①②から生まれた児にもとくに異常はなかったということです。

卵子凍結とIVMは、当院でもよく行う技術です。

当院のIVMは、rescueIVMで、成熟卵を狙っていながら取れてきた未熟卵を培養する技術なので、この論文のIVMとは違いますが、二つの組み合わせをした結果が30%近い妊娠率になったというのは、当院での結果とほぼ同様と考えますので、両方とも有用な手段と思っていいと思います。

ちなみに、PCOの方が採卵すると、それまでなかなか排卵しなかったのに排卵しやすくなるということがあります。卵巣に針を刺すという刺激で状態がよくなるといわれていますが、我々も、採卵後に今までとても不順だった月経が整った例を経験しています。この論文でも、もともとはPCOで月経がほとんどなかった方が対象なのに、採卵後に卵子や凍結受精卵を使わないまま、35名が自然妊娠されていますので、かなり効果があるのかも知れません。




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