入船亭扇辰「甲府ぃ」 | おあいそ。煮

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超新人の放送作家(漫才やコント・落語も書きます)でございます。
好物は、皆の笑顔と金魚です。あと、砂肝。

広々と


心狭しき


野糞かな




「引き続いて病み上がりのようなものが

出て参りましたが」


笑いを取って始まった

入船亭扇辰さんの一席。



私、

この人の寄席好きやなぁと思った。



考えてみれば、人の集中力はほんの数分

頑張って15分という中、


私がしばらく見ている落語は全部、

持ち時間が30~40分


座布団の上で正座をして

身ひとつで人を

30分以上惹きつけていられるなんて、

すごい演芸だと思う。





甲府から

一人前に出世することを夢見て

江戸へでてきたぜん吉。

願掛けをした帰り、

仲見世をふらついていると

巾着切り(スリ)に合って一文無しになってしまった。


途方にくれて歩いていると

いつか夜があけ、

空腹に耐えかねたぜん吉は

ついつい豆腐屋の卯の花の釜へ

手を伸ばしてしまった。


事情を聞いた豆腐屋の主人は

ぜん吉を気に入り、

ご飯を食べさせた後、

奉公に引き取ると言い出し、ぜん吉もありがたく引き受けた。


働き者で正直者のぜん吉は

昼も夜も休まず働き、

その愛嬌ある性格で、売り歩いた先々では

女・子どもに気に入られ、豆腐屋はどんどん繁盛していった。


「と~~~~うふ~~~~~ぃ・・・・ごまい~~~りがんも~どき~」

ぜん吉の威勢のよい売り声は

いつしか近所では時を知らせる声にもなっていった。

(あの豆腐屋が来たから、もう○時ね、という認識がされるようになった)


3年経ったある日、

豆腐屋の主人と女将さんは

一人娘のはなとぜん吉を結婚させることにした。

結婚した後もぜん吉は、

ますます一生懸命働き続けた。


ある日、

豆腐屋の主人は

一度ぜん吉にも暇を取らそうと思い、

声をかける。

するとぜん吉は

「両親の墓参りとおじおばへのあいさつと願ほどきに行きたい」

と言い、

はなと一緒に甲府へ旅立つことになった。



めずらしく旅姿で出かけたぜん吉夫婦を見て、

近所の人たちは声をかける。


「おや、どちらへ?」


するとぜん吉はこう答えた。


「甲府~~~~~~~~ぃ・・・・おまい~~~~り~~がんほ~どき~」








オチが間延びしやすい噺やなと思いましたが、

そこは入船亭扇辰さん。

ながーく続くオチでも

暖かい笑いを生んでいました。



私は基本、

こういうハッピーエンドが好きなので、

いい人いっぱいの暖かいこの

「甲府ぃlは

大好きな噺の一つです。