健康的な食事という点では、何もかもが常識破りで、餌の大部分を「脂肪」が占めているシロクマ(ホッキョクグマ)──人間なら心臓病を患うところだが、彼らは違う。
8日に発表された研究論文によると、その理由はシロクマの遺伝子にあるという。
米医学誌セル(Cell)で論文を発表したデンマーク、中国、米国の国際研究チームによると、シロクマが北極で生き延びることができているのは、脂肪の代謝および血液による移動をつかさどる遺伝子内で、短期間に起きた進化のおかげだという。
シロクマと近縁種のヒグマのゲノムを比較した研究によると、こうした進化はすべて、シロクマがヒグマから分岐した後、最近50万年以内に起きたという。
これまでの推算では、シロクマとヒグマの分岐が起きたのは60万年前から500万年前の間とされていたため、今回の研究で、シロクマがこれまで考えられていたよりもずっと若い生物種であることが明らかになっている。
米カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)のラスムス・ニールセン(Rasmus Nielsen)教授(統合生物学・統計学)は「分岐時間がこれほど短いとは、本当に驚くべきことだ」と語り、「北極の環境に対してシロクマが果たした他に類のない適応のすべては、非常に短時間で進化したにちがいない」と続けた。
研究チームによると、何がきっかけでシロクマがヒグマから分岐・進化したかは不明だが、この進化が起きた時期は、温暖な間氷期と一致するという。
この時期、ヒグマは温暖な気候に促され、従来よりさらに北へと進出した可能性がある。
そして再び気候が寒冷化した際、取り残されたヒグマの群れは、雪深く寒冷な新環境に適応せざるを得ない状況に追い込まれたのかもしれない。
シロクマは脂身の多いアザラシを主食としており、子に与える乳には脂肪が3分の1近く含まれている。
シロクマの全体重の約50%を占めるのは、筋肉や骨ではなく、脂肪分だ。それに対し、健康な人間の体脂肪率は8~35%とされている。
■完全な肥満が良性の状態。
論文の主執筆者の1人で、カリフォルニア大学バークレー校の研究者のエライン・ロレンゼン(Eline Lorenzen)氏は「シロクマは、脂肪中心の生活を送っている」と語る。
ロレンゼン氏は「シロクマの場合、完全な肥満が良性の状態になっている」とし、「われわれは、シロクマがそうした状態にどのようにしてうまく対処できているのかを解明したいと思った」と述べた。
研究チームは、グリーンランド(Greenland)のシロクマ79頭から血液と組織のサンプルを採取。
そしてスウェーデン、フィンランド、米アラスカ(Alaska)州のグレーシャー国立公園(Glacier National Park)、アラスカ海岸沖のアドミラルティ・バラノフ・チチャゴフ(ABC)諸島(Admiralty, Baranof, and Chichagof Islands)のヒグマ10頭から採取した同サンプルと比較した。
その結果、最も選択性の強い遺伝子の1つは「APOB」であることを研究チームは発見した。
APOBは哺乳類で、LDLとして知られる「悪玉」コレステロールに含まれる主要タンパク質をコード化し、血液から細胞内に移動できるようにする遺伝子だ。
この遺伝子に生じた変化は、人間では危険性が高いと思われるレベルの高血糖、高トリグリセリド(TG)状態にシロクマがどのように対応しているかを示唆している。
研究チームは、肥満が増加している現代社会において、このシロクマの消化機能が、いつか人間の健康維持に役立つのではと期待を寄せている。
ニールセン教授は「比較ゲノミクス研究では、人間が直面する同様の状態に、他の生物がいかに対処しているかを学ぶことができる」と説明した。
