気になったものですから・・



佐藤 健太郎・著、光文社 ↓


ウエブより、抜粋しました。






どうして、人はリスクをたやすく読み違えるのであろうか?

それは理性よりも本能が何倍も強力に働くからだ。

理性で判断すべきとわかっていても、どうしても本能の方が頭をもたげてしまう。

そして、人はリスクから目をそらしたり、過大に見積もろうとしてしまう。

その代表例として、人々がリスクを強く感じる要因が

ハーバード大学のリスク解析センターから発表されている。

長くなるが、貴重な内容なので、紹介したい。







1.恐怖心
ex.交通事故よりも遭遇する確率が低い通り魔やストーカーのリスクを強く感じる


2.制御可能性
ex.自分の運転より、他人の運転が怖い


3.自然か人工か
ex.有機野菜なら何でもOK、添加物を過剰に気にする


4.選択可能性
ex.自分で選べないときはリスクを余計感じる


5.子どもの関与
ex.自分の子どもを心配し過ぎると、リスクに盲目になる


6.新しいリスク
ex.新型インフルエンザやSARSなどの新しい脅威を怖く感じる


7.意識と関心
ex.大きく報道されたり、頻繁に耳にするリスクを見誤る


8.自分に起こるか
ex.アフリカの大規模な内戦よりも、日本の小規模な感染症が気になる


9.リスクとベネフィット
ex.リスクに対して利益があれば、リスクを低めに見積もる


10.信頼
ex.リスクを説明する人の信頼性が低いと、リスクの感じ方が高まる








これらは誰にとっても身に覚えのあることではないだろうか。

さらに、この10項目を福島第一原発での事件に照らし合わせてみる。


天災ではなく人災であり、子どもの健康への影響が心配され

マスコミは大きく報道し

リスクを説明する学者や政府が信用できない

などなどすべての項目を満たしている、と著者は言う。

そのなかでも、現代においてリスクの見積を大きく狂わせる要因は

マスコミの報道に他ならないようだ。

マスコミにとって商品である情報をより多くの人に買ってもらうために

リスクを実際よりも大きく報じ、大衆の感情に訴えて、危機を煽る。

この行動はマスコミにとっては生き残り戦略であり、本能に似たものでもある。

例えば、記者が市民の印象がよくない遺伝子組み換え作物に関する

プラス面の記事を書くと

読者からの反応は批判的なものが多くなり、売上が伸びない。

危険性を強調する記事のほうが読者受けがよく、新聞や雑誌の売上が増える

そうやって恐怖心が増大していくサイクルができあがるそうだ。

もうひとつ、マスコミ報道の問題点は大衆を煽ったまま、放置し

総括がないことである。

10年以上前にゴミ焼却場から出るダイオキシンは当時

精子減少の危険性があると伝えられていた。

しばらくして、「当時言われていたほどのリスクはない」と

学界でコンセンサスが取られた。

しかし、アカデミックの領域で十分なデータが出そろって問題の全容が理解されても

マスコミにとって、そのニュースは商品価値が低く

報道は小規模にしか行われない。

その結果、多くの市民は頭の中は元の説が残ったままになる。

私もこの本を読むまで、ダイオキシンは猛毒で危険で…という印象が

強いままで残留していて

新しい事実を知らなかった。

更に悪いことに、煽られた勢いで施行された対策だけが残り

余計なお金を垂れ流すことになる。

他にもゼロリスクを目指すことによって

私たちの引っかかりやすい罠と社会の負担するコストがわかりやすく紹介されている。

三笠フーズの汚染米、ホルムアルデヒトが混入した水道

発がん性物質などなど、ニュースで聞き流した事例が多数でてくる。

そして改めて基礎から教えてくれる放射能は

60ページに集約されていて、本当にわかりやすい。

シーベルトやベクレルという今回の事件ではじめて聞いた

単位もすんなり入ってくる内容である。

本当は怖かった昭和の栗下のレビューで紹介されているように

現代は昔に比べ、事件や事故は減り、史上最も低リスクな社会である。

これ以上リスクを減らそうと努力することは、トレードオフがつきまとい

何を犠牲にするか?の選択を迫られる。

そんなときこそ、本能に捉われてゼロリスクの幻を追わずに

冷静になって定量思考をしようと著者は主張する。

水のがぶ飲みコンテストで

7.8リットルの水を飲んだ女性が水中毒で死んでしまうように

水ですら、量によっては人体に影響を及ぼすのだ。

人体に害をなすかどうかは「あるかないか」の定性的なものではなく

その物質の量によって決まる。

定量思考を身につければ

「AにはBという危険な物質が含まれている」という不安を煽る

定性的な報道に惑わされないで済む。

「危険がある」「リスクがある」という言い方はありますが、「安全がある」という言葉はありません。

リスクを定量的に捉えて広い視野で理解し、自分が受容できるリスクを判定する。

不確かな時代を理解する粒度を上げよう、その知恵はこの本のなかにある。