　北鎌尾根を登る　　１７，９，８～１１　　　　　

　北鎌尾根は随分昔に行き損なって｢忘れ物」になってしまってからなかなかチャンスが巡ってこなかった。昨年条件が整い計画したが天気に恵まれず中止。これでもう駄目かもしれないと思い始めたが今回もう一度計画が復活した。何より北鎌尾根を登るにはその取り付き(北鎌沢の出合）に行くだけで大変であり、どう計画しようと最低ビバークの用意は欠かせず、荷物もそれなりに担がなければならず体力がなにより求められる。徐々に衰えを感じている身にはこれが最後のチャンスだったかもしれない。

　夜行バス（苦手でほぼ眠れない）で上高地に着きその日のうちに北鎌沢出合でテント泊という計画では、たどり着くのは不可ではなくとも次の日が本命であり登れそうな気がしなかった。その計画でくる体力バリバリの仲間（Ｙさん）とは別に年寄り２人（Ｊさんと私）は初日朝発で横尾まで入ることにした。その日の夜行で来るＹさんとは２日目水俣乗越で合流し北鎌沢出合に行く。しかも体力差がありすぎるからテントも持ってきてくれることになった。Ｙさんにすれば年よりは面倒くさいだろう。

　８日朝発で沢渡、バスで上高地に入る。横尾までだから急ぐことはない。いつものようにカッパ橋、明神、徳沢園、横尾と約３時間弱の散歩である。のんびり歩いても３時間も掛からないのだが、この平地歩きが年を追うごとに気持ち的に遠くなってくる。徳沢園のキャンプ場の木々が少し色付き始めていた。横尾には１４時には着いてしまったが、もう一人が明日朝の上高地到着だからさらに先に行く事もないので山荘でのんびりする。横尾山荘は大変な賑わいだった。

　９日山荘の朝食後でも６時くらいには出発する。６：３０頃コケのきれいな沢を過ぎて槍見河原に着くと槍ヶ岳登山ツアーの大勢が休憩していた。６：４０頃。

　一の俣、二の俣と過ぎて槍沢ロッジ。７：３０頃。先ほどのツアーの団体やロッジから出発する団体で沢山の人で一杯である。少し休む。

ババ平、８：３０頃。整備されてトイレ、水場があり、テントが沢山。トリカブトの季節です。

　９：００頃には水俣乗越分岐(大曲り)に着く。この道は昨年の槍ヶ岳登山以来だ。乗越合流の予定だしこの登りは結構きついし天気良く暑いし休み休み登っていく。相当合流までに時間があると思っていた。

　私が乗越に着いたのが１０：３０頃で２人組みが降りて行くところだった。降り口が相当急峻な様子で「やばい」といいながら降っていった。それを見ているうちにもう１人を追い越して、今朝上高地に着いたはずのＹさんが早くも登ってきたのにはびっくりした。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（乗越から遠く高瀬ダムと剱岳）

　聞けば上高地を出たのが５：４０頃であるから５時間で登ってきたことになる。しかもテントを担いでである。地図のコースタイムで６時間４０分くらいかな。休みを入れれば７時間では着かないだろう。驚くべきスピードでつくづく一緒に出なくて良かったと思った。もちろん彼は追いつくために急いだのではあろうが、それが出来る身体能力の高さには驚きだ。

　先行者が「やばい」といいながら降りて行ったがここから天上沢への降りは降り口が酷く急峻なザレになっているので、私とＹさんは持ってきた軽アイゼンを使うことにした。（若干雪渓が残っているという情報があったからだが。）１０：５０頃から。

　急峻な沢（降り口は溝状）はずっと続いているのだが、多分３０～４０ｍ程度降りたところで右手(右岸）に細い道が出てきた。これからは多少マシな降りになる。が滑り易い道である。軽アイゼンも６本だと多少邪魔だろうが、私の４本（ハイキングアイゼン）は爪も小さいのでこうした時には使いやすいし、後から出てきた雪渓でも一応ブレーキは効く。要は使い方次第である。

　１１：２０頃には本峰を含め北鎌尾根が見えてきた。この写真（Ｙ）が私たちが登る北鎌尾根（Ｐ８から）のほぼ全貌である。右方の高みが独標。

　降っていくと雪渓が少し残っていた。アイゼンのない人も雪渓の際を歩けば問題はない。雪渓が終わった辺りで１１：３５くらい。

　　これから涸れ沢を降っていくのだが、ガラガラのゴーロが続きとても歩き難い。

　天上沢の流れの中に入ったのは１２：３０頃だったようだ。それからしばらく左岸を辿ってもそれらしい出合になかなか着かない。おかしいというのでＧＰＳを見てみると行き過ぎていた。そういえば岩の上にケルンを沢山積んだ所があった。あそこだろうというので引き返した。引き返してみるとこんな大きな沢の流入を(もちろん水はないのだが大岩が積み重なっている。）見落としていた。出合にはテントの一つや二つはあるはずとそれを探して下ばかり見ていたということもあった。しかしまだ１３時頃で時間が早かったのだ。案の定後からぱらりぱらりと人がやってきたが、まだ時間が早いので彼らは北鎌沢を遡っていった。私たちも順調なら取り付くことも考えたが、チョンボのお陰でやる気を失いここにテントを張ることにした。上に行くには水を担ぎ上げなければならないし、夜行で来た人もいるから無理することはないし、予定はここである。（Ｙさんがもちろん一番元気だったが。）

　ともかくテントを張りあるだけのお酒を飲んでのんびりする。その流れで夕食もとる。薪を集めてきて恒例のキャンプファイアー。そのうち単独の男性と４、５名のパーティーがやってきて近くにテントを張っていた。結局私たちとこの２組だけだった。今日ここにテントを張れば帰りは月曜日になるわけで、多分昨日が一番多かったのだろうと思う。

　日暮れてきたところで早々と寝ることにした。

　私はシュラフカバーしか持ってこなかったのでこの夜は結構寒かった。昨日が１４時頃で、今日は１３時過ぎには行動を終わってのんびりしているので疲れはないかと思ったのだが、山に入って２日過ごすということでやはりそれなりに疲れていると感じた。たいして動いていないからといっても山中何日かはそれだけで効いてくるもののようだ。時間を食いすぎるのもあまりいいことではない。ともかく何であれ明日が本命である。

　（続く）　

槍ヶ岳・北鎌尾根