SRY遺伝子
SRY(Sex Region Y)遺伝子 (アリマキ的人生続き)
(15,7,1記、補足)
アリマキのオスを哀れと思うなかれ。ヒトであってもその基本的なオスの役割
は変わらないのである。
* ヒトの染色体についてオサライ
「私たちヒトは父から23巻、母からも23巻の書物をもらい受ける。各巻は
それぞれ大きさとページ数が異なる。しかし父由来の書籍と母由来の書籍の各巻
は互いに相同である。つまり父の第1巻と母の第1巻は同じボリュームであり、
内容もほぼ同じである。第2巻、第3巻と以下同様に対応関係が続く。」
精子および卵子によって運ばれた23巻ずつふたそろえの百科事典は受精卵の
中で合一され、全46巻の一大叢書となる。受精卵が分裂して二つに分かれると
き、46巻の叢書は(写本が作られ)、46x2セットとなり、分裂したそれぞ
れの細胞へと分配される。
私たちの身体のすべての細胞は、脳でも心臓でも膵臓でも、その細胞核の内部
に同一内容の全46巻の百科事典をもつことになる。ヒトは6兆個もの細胞から
成り立っているといわれるのだから、これは想像を絶する。(46巻*6兆個)
唯一の例外が精子と卵子である。
それぞれを作り出すもととなる細胞があり、それには全46巻の百科事典が並
んでいる。この細胞が二分裂して精子もしくは卵子を作り出す。このとき46巻
は倍加されず、46巻を二つに分けて23巻ずつにする。もともと46巻は父と
母から来た23巻ずつのセットであったから、元の状態にもどすことになる。
ただし今作られる精子または卵子の1セット(23巻)は父と母からもらった
そのままの23巻ではない。父と母がくれた23巻ずつの百科事典は混ぜ合わさ
れシャッフルされている。だがこのシャッフルはでたらめに起こるのではない。
事典には第1巻、第2巻、第3巻と名称がつけられており、同じ巻の同じ章に
はほぼ同じ内容が書かれている。しかし文章ごとにほんの少しずつ異なる表現、
異なる描写が含まれている。
シャッフルは父の第1巻と母の第1巻との間のそれぞれ対応する章の間で、細
胞分裂ごとに交換が起こるのである。ここで文体の微妙な差が混合され交流が生
じる。
この情報交換こそが私たちに多様性と変化の可能性をもたらしているのである。
だからあなたはあなたの父または母と似ているけれどそっくり同じというわけ
ではなく、あなたの子どもも、あなたとあなたのパートナーと似ているようで似
ていないのである。
同じ父母の兄弟姉妹でも全く同じ組み合わせは二度と起こらない。
「一方、百科事典全体から見ると構成自体にそれほど大きな変更は起こらない。
だからこそ私たちの種としての基本形が保たれているのだ。ミクロを変えつつマ
クロを保っているのである。」
* Y染色体
女性の場合もとになる細胞が二分裂して二つの卵子が作られるとき、全46巻
は、均等な23巻ずつに分けられてそれぞれの卵子に分配される。
しかし男性の場合精子のもとになる細胞が二分裂して二つの精子になるとき同
じく46巻が23巻ずつに分けられるのだが、この2セットは均等ではない。
46巻のうち最後の1巻だけはなぜか際立って小さなものなのだ。
これがオスをオスたらしめているいわゆるY染色体である。
だから二つの精子の一方には23巻、他方には22巻と小さな1巻(Y染色体)
となる。
このY染色体に対応して、小さくない第23染色体(性染色体)をX染色体と
呼ぶ。
卵子の場合は22+Xが二つ。
精子の場合は22+Xと22+Y。
そしてこの組み合わせから、ヒトは44+XX(女性)か44+XY(男性)と
なる。(全46巻)
***
(この本の「第七章 アリマキ的人生」 の中で「ヒトの体細胞は、23本の常
染色体(性染色体以外の染色体)をそれぞれ2組ずつと、性染色体XX(メス)
かXY(オス)を持つ。精子はこれが半分に分配され、23+Xと23+Yの精
子が半々に作られる。
メスの卵子は、XXが均等に分配されるので、23+Xの1通りとなる。」
(p179)とされている。
これは明らかに勘違いか誤植であろう。これでは ヒトの染色体は全48本 と
なってしまう。)
***
本屋に立ち寄ったらこの本があり、蔵書にしてもいいかと購入しこの部分を
チェックしてみたら直されていなかった。08年初版第1刷のままだから、増刷
するほどは売れてないのかな?ハカセも新しい本を次々に出しているから昔の本
をチェックしている暇はないのかも。
X染色体はY染色体の5倍くらいの大きさを持つ。男性のみなもとYは遺伝子
レベルで見ると、極めて頼りないちっぽけな存在なのである。
それでも書物で言えば1ページ1000字で数万以上のページからなっている。
このY染色体を受け取ったものがオスとなるのだが、その変化の動因は書物全
体に書き込まれた内容が総合的に作用して初めて現れるのではなく書物の限られ
た場所に書かれたいわば鍵のようなものが変化の契機を作り出すらしいという
ことが分かってきた。
* SRY遺伝子の発見
父と母由来の二つの相同の染色体の間で、部分的に交換が起こり、情報が混合
されシャッフルされる。
しかしX染色体とY染色体は性決定のメカニズムにおいては一対になってふる
まうが、大きさが極端に異なり、内包されている情報も互いに対応していない。
だからXとYの間には遺伝情報の機能的な交換はない。
しかしごく稀にミステイクは起こりうる。
男性の場合、46本の染色体は二分されて22+Xと22+Yと二つの精子に振
り分けられる。
そのときたまたまY染色体を綴じている糸がほつれて、その一部のページがX染
色体の(あるいは他の染色体)間に紛れ込んでしまう、「落丁」あるいは「乱丁」
とでも呼ぶべき事故が発生しうるのだ。
そのちぎれて本来の場所ではないところに紛れ込んだ情報が、男を男たらしめ
るために必要な一番最初の重要情報だとすればどうなるか?
このどこかにYのほんの一部を潜ませている精子は分類上は22+Xである。
この精子は卵子(22+X)と受精して、遺伝子型は44+XXつまり女性であ
るはずである。
にもかかわらず、紛れ込んだY染色体の一部から、男性化の命令が発せられや
がてその個体は外形的には睾丸とペニスを有する男の姿をとることになる。
これがXXmale(女性型男性)である。(両性具有。)
これとは逆のパターン。
Y染色体の男を男たらしめる重要情報が書き込まれた部分の落丁が発生しうる。
そのようなY染色体を振り分けられた精子の遺伝子型はなお22+Yであり、受
精すれば44+XYつまり男性型の染色体を持つ。しかしY染色体上には男性化
の指令が欠落している。
Y染色体から男性化の最初の命令が発せられなければ、この個体は本来のプロ
グラム=デフォルトの発生を行う。生命の基本仕様は女性で、仮にXYの遺伝子
型でも女性となる。これがXYfemale(男性型女性)である。
(これも両性具有の一形式。)
そしてこの自然のミステイクとしてのXX型maleの中に紛れ込んでいる
Yの断章を探し出し、またXYfemaleのYの内部から落丁してしまった
ページを割り出し、そのページを原典と照合すれば、男を男たらしめている命令
の実体を見つけることが出来ると探索した分子生物学者たちがいたのである。
この男を男たらしめる遺伝子探しは分子生物学者たちの第一発見者としての栄
誉をかけた熾烈な競争の中で成し遂げられた。
(福岡ハカセはこうした学者同士の熾烈な争いの人間くさい側面を浮き彫りにし
てくれるが、これが実に面白い。これは読んでもらうしかない。)
それがSRY遺伝子である。
(Y染色体の中の性Sex決定領域Regionという意味である。)
この性決定(男性化)遺伝子に必要な条件
1 Y染色体上にのみ存在し、他の染色体上に類似の遺伝子は存在しない。
2 すべてのXX型男性の症例において、その遺伝子が乗り移ってきている。
3 すべてのXY型女性の症例において、その遺伝子が落丁している。
4 その遺伝子は、他の遺伝子のスイッチのオン・オフに関わる上位の遺伝子で
あり、その証拠としてDNAに結合しうる特徴的な構造をコードしている。
(少々専門的で?)
5 男性への分化を果たす細胞(たとえば精巣)で、その遺伝子は活動
(スイッチ・オン)している。
6 Y染色体が男性を決定している他の生物でも、類似の遺伝子がY染色体上に
存在する。
そしてさらに必要にして十分な7番目の条件として「SRY遺伝子さえあれば
XX型染色体を持つ受精卵を男性化できる」という証明がマウスを使ってなされ
たのである。
**
生命の誕生に関わるこうした自然のミステイクがありうるということ、現に
XYfemaleやXXmaleが存在しているということ、このことがいわゆる「性同一
性障害」と即同じことではないようだし、LGBTの人たちとどのように関係し
ているのかは不勉強で私には分からない。が、遺伝子上は男なのに外見が女で
あったり、遺伝子上は女なのに男であったりしうる、ということを私たちは知る
ことが出来る。しかしこのことがその人の心にどのように影響するのかも私
には分からない。
「男のくせに」とか「女なのに」とかはこの場合通用しないことを知るべきな
のだろう。このことを知るだけでも私たちの無知、偏見から一歩を踏み出すこと
が出来るはずだ。
(続く)
* デフォルトといえば今ギリシャのデフォルト=債務不履行がちょうど
大問題となっている。ギリシャ経済が破綻するかもしれないし、それがユーロ
圏のみならず世界経済に打撃を与えるかもしれない。
パソコン用語でデフォルトといえば初期設定のプログラムを意味する。
生命のデフォルトは基本仕様プログラムのことで後者になる。
次に生命のデフォルトについて福岡ハカセの記述を追ってみる。