アリマキ的人生 | 鬼川の日誌

アリマキ的人生

 

  アリマキ的人生(メスがオスを作る)    (15,6,27元記事)加筆修正
 

   最近LGBTいわゆる性的マイノリティーの人たちへの差別の問題などが時折

 話題になる。話題を提供しているのはこれまた「クレイジー」(とシュワルツェ

 ネッガーが言う)な米国大統領トランプだったりする。今米国でNETで「バカ」

 を検索するとトランプが出てくるという話だが、そのトランプに鼻面を引き回さ

 れて高額な防衛装備品を買わされ財政を火の車にさせ、理不尽極まる辺野古の海

 の埋め立てに狂奔しているのが日本の政府というわけだ。その安部一強を許して

 いる私たち日本人がもっとも「バカ」ということなのだろう。

 

  ともかくこうした差別の問題は根が深く難しい。苦しんできた人、苦しんでい

 る人たちの立場に立って考えるということはなかなか容易なことではない。 

 

  自分も問題を十分分かっているとは言えない口であるが、特に性的な問題を考

 えるうえで私たちの無知も偏見の一部を提供しているのではないかと思う。そこ

 でそもそもオスとメスとは生物学的には何なのかということを『できそこないの

 男たち』(福岡伸一、光文社新書)という本を参考に考えていきたい。

  

  ** アダムとイブ(オスとメス)

  旧約聖書ではイブはアダムの肋骨から造りだされたとされている。こうした神

 話的な記録も既に男性優位の社会が出来てからのものがほとんどだからというこ

 とをその記述は現している。

  *
  例えば日本神話にしてもイザナギとイザナミの国産み神話で最初にイザナミ

 (女)の方から誘ったので産んだ子はヒル子だった。つまり望まぬ不具の子が

 生まれたという感じで書かれている。しかしどうやらこれは女性優位の縄文神話

 から男性優位の弥生神話へ改作、転用する過程で記録されたものと考えられるの

 である。

  これもとても面白い話なのだがここではこれ以上は割愛する。
  ( cf、『「風土記」にいた卑弥呼』 古田武彦 朝日文庫 )

  *
 
  この歴史的な神話の分析はここではいったんおいておいて、生物学的には全く

 逆でアダムこそイブから造りだされたものであると言えるようなのである。

  地球が誕生した46億年前から最初の生命が発生するまでにおよそ10億年が

 経過した。「そして生命が現れてからさらに10億年、この間生命の性は単一で、

 すべてがメスだった。」

  母が自分と同じ遺伝子を持った娘を産む、すなわち単為生殖は、効率がよい。

 「今でも単為生殖で増殖している生物はアリマキを始めとしてたくさん存在す

 る。」

  しかし自分の子どもが自分と同じ遺伝子を受け継いで増えていくこの単為生殖

 にはひとつだけ問題点があった。新しいタイプのこども、つまり自分の美点と他

 のメスの美点とをあわせもつようないっそう美しくて聡明なメスをつくれないと

 いう点である。

 「環境の大きな変化が予想されるようなとき、新しい形質を生み出すことが出来

 ない仕組みは全滅の危機にさらされることになる。」

  生命が出現してから10億年、大気には酸素が徐々に増え、反応性に富む酸素

 は様々な元素を酸化するようになり、地球環境に大きな転機がおとずれた。気候

 と気温の変化もよりダイナミックなものとなる。多様性と変化が求められた。

  メスたちはこのとき初めてオスを必要とすることになったのだ。

  「つまり、メスは太くて強い縦糸であり、オスは、そのメスの系譜を時々橋渡

 しする、細い横糸の役割を果たしているに過ぎない。

  本来、すべての生物はまずメスとして発生する。なにごともなければメスは生

 物としての基本仕様をまっすぐに進み立派なメスとなる。(後で分かるがこのこ

 とは人間もまた変わりはないのだ。)

  ママの遺伝子を、誰か他の娘のところへ運ぶ「使い走り」。現在すべての男が

 行っていることはこういうことなのである。アリマキのオスであっても、ヒトの

 オスであっても。」

  * アリマキ的人生

  草花の茎にびっしり貼りついて大集団を形成しているアリマキたちはどれも同

 じ姿をしている。「大きめのものは最初にここへ来た母。その周りにいる中型は

 その娘、さらに彼女たちの間に多数蠢いている小型のものは、そのまた娘たちな

 のである。」

  「メスのアリマキは誰の助けも借りずに子どもを産む。子どもはすべてメスで

 あり、やがて成長し、また誰の助けも借りずに娘を産む。こうしてアリマキはメ

 スだけで世代を紡ぐ。」

  「ある場所に無数に群がるアリマキたちは・みな互いにクローンなのである。」

  ところがアリマキたちはこの優れて効率のよい生活の仕組みを1年に1度だけ

 変える。彼女たちが冬の訪れを予感すると(アリマキたちは気温の変化の他に夜

 の時間の長さを計っているらしい)、これまでとは違うやり方で子どもを作る。

 メスの体内でホルモンのバランスが変化してオスを作るのである。

  アリマキのメスは性を決定する染色体としてヒトと同じXX型をとる。メスが

 メスだけで世代を繋いでいるときは、母のXX型は、娘のXX型へコピーされる。
 ここにはY染色体は存在しない。

  アリマキはメスの仕様から、2本ある性染色体の一つを捨てて、できそこない

 のメスとしてX型のオスを作る。(1本染色体がなくなったことを示すために、

 このような場合、X0型と表記する。)

  メスはn本の常染色体2組ずつとXX型の性染色体(2n+XX)、オスは

 2n+X0となる。精子が作られるときこれが半分に分配されるので、n+Xの

 精子とn+0の精子(X染色体を1本も持たない)ができる。そしてこのn+

 0型の精子はまもなく死んでしまうのである。

  オスのアリマキの役割はただひとつ。秋が終わるまでに、出来るだけ多くのメス

 (他の草花の茎に着く別集団の)と交尾すること。命尽きるまで。

  このときメスのアリマキのほうは誰の手も借りずに娘を次々に産んでいたメス

 とは違って、オスと交尾するために体の中に卵子を用意しているのだ。
 2n+XXが分配されて卵子はn+Xが二つとなる。

  そうするとメスの卵子はn+X型のみ、オスの精子もn+X型のみ。これが受

 精して出来る受精卵は2n+XX型の1通り、すなわちメスしか存在しないので

 ある。

  「メスは受精卵をどこか安全な場所、草木の隙間や厚いコケの下などに産む。

 受精卵はすぐには発生を開始しない。硬い殻に包まれ、低温、凍結、乾燥などに

 耐える。その耐性は、やわらかい身体を持つ成虫のアリマキよりもずっと強い。

 だからこの冬が例年になく、長く厳しいものであったとしても次の春まで生き延

 びるチャンスが大きい。」

  春になりアリマキたちが孵化してくるが、もちろんすべてがメスで、このメス

 たちはまた誰の力も借りずに次々と子どもを産み増えていく。しかし今年孵化し

 たメスは去年のメスとひとつだけ違うことがある。

  それは昨年の秋、ほんの一瞬現れたオスによって、ある集団のメスと別の集団

 のメスの遺伝子が、新たに出会い、混ぜ合わされているということだ。

  オスとメスとその出会いと遺伝子の交換によって何が生み出されるかは分から

 ない。ただこれまでとは異なる多様性がほんのわずかでも変化が、もたらされる

 ことがある。少しだけ乾燥に強い。わずかだけ凍結に耐えられる時間が長い。

 エネルギー変換の効率がちょっとだけ優れている・・・。


  「気候の変動や環境の変化に対して、その試練をかいくぐって生き延びる者が

 あればそれでよいのである。生命は常にその危ういチャンスに賭け、そして流れ

 を止めることなく繋げてきたのである。」

  まさにこれほどオスの本来の役割を端的に表現したものはない。世界は本来

 メスのものなのである。

   (続く)