週末の午後、駅から少し離れた住宅街を歩く。
車の音も人の声も、遠くでぼんやりと響いているだけ。
風に揺れる木の葉の音と、自分の足音だけがはっきりと聞こえる。
そのときふと、「この静けさが、自分を守ってくれている気がする」と思った。
普段は仕事のこと、人との距離感、先の見えない未来――
頭の中はいつもなにかしらの思考で埋め尽くされている。
けれど、この静けさの中にいると、考えすぎることができない。
余計なものが、すっと引いていく。
静けさは、何も語らないけれど、何も否定しない。
自分の状態がどうであれ、黙ってそこにいてくれる。
誰にも気づかれなくてもいい。
がんばっていることを誰かにわかってもらえなくても、
こうして穏やかな場所にいられるだけで、すこしずつ自分が戻ってくる。
静けさがもたらすのは、空白ではなく回復だ。
なにかを手に入れるためではなく、余計なものをそぎ落とすための時間。
にぎやかさや達成感が自分を支えてくれるときもある。
でも、何かに疲れてしまったときに、
そっと背中を支えてくれるのは、こういう静けさなのかもしれない。
それは、逃げ場ではなく、安全地帯。
自分の輪郭が、ぼやけずに済む場所。
この静けさが、今の私には必要だったのだろう。
そして、この静けさのなかにいるときの自分を、少しだけ好きになれる気がした。
「大丈夫」とはまだ言えないけれど、
今日はこれでいい。