毒と薬。 | 大神Blog

毒と薬。

ども。
稲葉です。

…風邪、だいぶ治りました。
土曜日に病院に行って
『来週までひきずるわけにいかないから何とかしてくれ!』
とお願いしたところ、チャチャチャチャン!(ドラえもん風)という効果音と共に
とある抗生物質を出してくれました。
パッケージも大仰なんですが、それにふさわしくこれが効く効く。
普段はあまり薬に頼るのは好きではないんですけど、まあいたしかたない。
咳止めや鼻炎の抗アレルギー剤なんかも一緒に出たので、この数日間は薬漬けな
感じです。後は、気合いで乗り切ろう!

金曜日のブログをアップした後に知人から何通かメールが来まして。
『何か荒れてたけど大丈夫?ディレクターとケンカしてるの?』
…いや、別に荒れてません。普通に思ってることを書いただけです。ご心配なく。
タイトルがちょっと刺激的だったようで、そこに反応されてしまったみたいですが。

さて。
O・ヘンリーって作家、知ってます?
名前は知らなくても、『最後の一葉』というお話は知ってると思います。
そう、『あの葉っぱが全て散ったら私も死ぬのね…』という有名なお話です。

そのO・ヘンリーの作品で
『魔女のパン(邦題はまちまち。原題はWitches' Loaves)』
というお話があるのです。

それは、まだ僕が小学生の頃でした。
当時僕の通う小学校では、給食の時間にお昼の放送というものが流れており、
内容は音楽だったり放送委員が考えたコーナーだったり…その日によって
違うのですが、放送委員のネタがつきたときに『世界名作劇場』などの
ドラマコンテンツが流されていたのです。

実は、僕は(今でも)かなりラジオドラマが好きで、当時から好んで聴いていました。
なので、まわりの皆が全く放送に関心なさそうに喋ってるなか、
その手のドラマコンテンツは結構楽しみにしてたのです。

その中で、いまだに記憶に残ってるのがこの
『魔女のパン』
です。

あらすじをかいつまんで紹介すると、

『あるパン屋に、いつも古パンをもらいにくる薄汚れた青年がいた。
 その青年は、毎日決まって古パンを2つもらいにくる。
 女主人は、その青年を不憫に思い、何か自分にできることはないかと考える。
 下手に施しをしたら青年の自尊心を傷つけるだろうし、何か良いアイデアは

 ないだろうか?
 と考えた女主人は、古パンの奥深くにこっそりとバターを塗り込もうと思い立つ。
 これならば、外から見ただけではわからないし、あとで食べるときに初めて青年

 が気づくだろう。そう思った女主人はナイフを使って、古パンの奥深くにたっぷり

 とバターを塗り込んでおいた。
 翌日、いつものように古パンをもらいに来た青年にそのバターを塗り込んだパン

 を渡した女主人は、ひとりほくそ笑む。
 今日の青年には、ちょっとだけ潤いがもたらされるだろう、と。

 …ところが、その後しばらくも経たないうちに青年が怒鳴り込んでくる。
 思いつく限り、あらん限りの罵詈雑言で女主人を罵る青年。
 「お前のせいで何もかもだいなしだ!このxxx」
 などとわめき散らし、収まる様子が無い。
 何が起こったのかわからずうろたえる女主人。
 すると、その青年の助手だという男が現れて事情を説明する。
 「実は、青年は建築士なのです。大きなコンクールがあり、それに応募するため

 にずっと寝る間も惜しんで頑張ってきたのです。
 古パンは、製図を修正(要するに消しゴムの代わり)するために使っていた
 のですが、バターのせいで全て台無しに…」
 その間も罵倒を続ける青年。
 女主人は、その場にたちすくむばかり。
 小さな親切心のつもりが、取り返しのつかないことになってしまったのだった。
 ゴゴー…(←風のような効果音)
 終わり。』
 (当時の記憶をたぐって書いているので間違いがあるかもしれませんが、
  おおむねあってると思います。)

…どうっすか?この話を楽しい給食の時間に聞かされた小学生の気持ち。
パンを食べる手が止まりましたし、僕の心には傷にも似た記憶が残りました。
何の教訓があるんだよ!何だよこの超絶バッドエンドは!
そんな気持ちでいっぱいになったまま、34歳の今に至るまで
心の傷は癒えてません。

物語には必ず『毒』があります。
記憶にひっかかる部分とでもいうのでしょうか。
なにがしかの特徴や、心に残る部分。それは『毒』の部分だと思うのです。
映画や漫画、小説でもゲームでも、主人公の設定やデザインには必ず『毒』があります。
かわいいキャラクターにも、間違いなくそれはあります。
よく『毒にも薬にもならない』という言い方をしますが、この言葉で重要なのは
『薬』ではなく『毒』です。
毒と薬のバランスが絶妙に取れているとき、それは万人に受け入れられる
名作となるでしょうし、毒にバランスが偏るほど人を選ぶことになります。
例に挙げた『魔女のパン』は毒のカタマリだと思うのです。
心には残るのですが、その後味の悪さといったら…
まあ、小学生という多感な時期に聴いたというのもまずかったのでしょう。
苦さを受けとめるには、ある程度の年齢が必要ですから。

でも、そんな苦みの強い作品でも心に残ってるものはたくさんあります。
そして、そういう作品は一部の層から絶大な人気を得たりします。
僕自身、その手の作品で大好きなものもたくさんあります。
ある意味この『毒』こそが作り手の個性の部分だとも言えますから。

『大神』にも、ほのぼのとした世界のようですが『毒』は存在します。
それはデザインだったり、世界だったり。お話だったり、遊びだったり。
痛みと緩和の繰り返しで没入してゆく世界であり、ほのぼのと浸り続ける
ぬるい湯船のような世界ではありません。
この作品の『癒し』は、能動的にプレイヤーが動いた結果として得られるものですし。

クローバーのメンバーが過去に作ってきた作品は毒がかなり多かったのですが、
それは、記憶にきちんと残る作品作りを無意識に選択してきたからだと思います。
『大神』は、ある意味で僕たちが体験したことのない『毒と薬』のバランスなわけです。
(そのせいか、『大神』から入ってきた人が僕たちの過去の作品を知ると驚くようです)
神谷もそれを意識しつつ、日々奮闘しております。
結果がどうなるのかは、作品で楽しんで下さい。

では、また!


【追伸】
「大神」年賀状素材ですが、ダウンロードできないという事例が報告されましたので
ダウンロード方式を変更いたしました。
ご迷惑をおかけいたしますが、ダウンロードできなかった方は再度お試しいただきますよう
よろしくお願いいたします。