前回、前々回と柔術風の手解きを紹介しましたが、柔術的な稽古を行っていて改めて気付いた点、基本的なところですが、身体操法表現つまり術語・語句の誤解・誤用について書いておきたいと思います。

 

その時の稽古で気になったのは”膝の抜き”に関してですが、この場合の”膝の抜き”とは、武術研究家の甲野善紀先生が90年代半ばから仰っている”膝の抜き”のことを指し、当時先生が最重要視されていた”浮身”を維持する為の体捌として紹介された術語です。

前回の稽古では、その”膝の抜き”を崩しに活用してもらいたかったのですが、共通認識が取れていなかった為か上手く出来ませんでした。

 

甲野先生のみならず多くの方が”膝の抜き”と言う表現を使いますし、表現そのもののが動作を表している様に思われますが、私が使っていた意味合いとギャップがあったと言うことです。

 

参考までに”膝の抜き”が、どの様に誤解されていたかと言うと、”膝をカクンと曲げ、瞬間的に身体を沈め、その一瞬に疑似無重力を得る、そしてその瞬間に技を仕掛ける”と捉えられていたようです。

この解説、文章を追うとそれらしいのですが、少なくとも私が直接先生から見聞きしたそれとは異なる体捌きです。

 

では、私が教わった”膝の抜き”はどのようなものだったかと言うと、”鼠蹊部から脚を引き上げ、空中に浮いている時間を作る”と言うニュアンスでした。

現実には重力がありますから、脚を引き上げれば結果的に身体は沈みます、なので見た目前述の説明と似た感じが無くもないのですが、必要とする体捌きの内観が正反対であることが理解して頂けると思います。

 

当時も、膝をカクンと曲げ、身を沈めて真似る人が、後を絶ちませんでしたが、少なくとも私の観た限り、先生と同等の技の効き目を示せる人はいませんでした。

 

中には「ニュアンスの問題だけでやっていることは同じ」と”膝カックン”と解説していた人もいましたが、それだと、体捌き的には自重を下方へ急に動かすだけのことですから、反応が良い方や、立ち方の鍛錬を積みしっかりと自立出来る方には崩しが効きません。

また、”膝カックン”とイメージすると、膝を抜いた途端に身体全体の緊張を緩めてしまう人が多く、態勢の整った人からすると、その隙に反撃することも可能です。

 

他流の事は分りませんが、私の理解する”膝の抜き”や”抜き”とは、”膝カックン”や”瞬間的な局所の脱力”とは異なると言うことです。

こうした間違えに気付き、本来の体捌きを探求する為には手解きでの崩しと術語の”摺合せ”が必要となります。