そろばんを学習することでイメージの操作や空間情報処理の能力が優れるようになるといっても構わないのではないかと思います。特に、そろばんの珠の表示は十進位取りのとおりですから、抽象の教育である筆者の理解にも大いに役立ちます。そろばんは身近な生活においてもお釣りの計算や消費税の計算に役立ちます。また、そろばん塾では先に述べたような技能に加えて、人間関係の構築のトレーニングの機会とも言えます。人間は群れたがる傾向を持っている一方で、一人になりたがる傾向を併せ持つところに人間の複雑さがあります。実際、日本での大規模なストレス調査の結果では、日本人が第一にあげるストレス要因は「人間関係」であるとされています。一人でいたいという願望は自分で処理できるものなのですが、群れたがる傾向を満たし、集団での生活に適応するには技術が必要になります。それは、他の人との間合いの取り方の技術といっても良いかもしれません。間合いとは、相手の意図を正確に理解し、自分の意図を相手に正確にわかってもらえる関係のことだと言えます。これは、相手のしぐさや表情、声の調子などからわかるものなのです。人間は意図を言葉に出していうことは必ずしも一般的ではありません。しぐさや声色などから、直接には言いにくいことや言いたくないことを相手に伝えようとします。しかし、このような人間関係は単独で生きている人や付き合いの短い人との間では習得できないことはいうまでもありません。他者との人間関係を良好に保つための基本は、他人と過ごす時間での間合いの取り方だといえます。