さすが人心を掴むのが抜群にうまい作家、湊かなえ。
主な登場人物3人の心の描写が素晴らしい。この3人の女性のうち自分に近い人は誰なのか、何となく当てはまるのが恐ろしい。
都会から景色の良い田舎にパートナー健吾の誘いで引っ越してきたつ陶芸家すみれ
地元で仏具屋を営み店番をしながら足の不自由な娘久美香と大企業の地元工場で働く夫と暮らす奈々子
そして、大企業の地元工場で管理職の夫と娘彩也子と転勤で田舎町にやってきた光稀
この3人が足の不自由な久美香と彩也子を広告塔にすみれがつくる作品を支援団体「クララの翼」として売り出すことから話は始まる。
芸術家として中途半端なすみれが「クララの翼」が注目されることから自分を売り出すことを中心に考え始め、奈々子は久美香や夫との関係、また田舎町での人間関係、そして突然いなくなった義母に思いをはせていく。さらにこんな田舎に自分はいる人ではない、一日でも早く出ていくことを考えている光稀。それぞれの人間関係とその思い、さらにそこに殺人事件まで絡んでいく。
殺人事件の顛末は「ふ~ん、そうきたか」という感じであったが、私は湊さんがつけた本題に興味を持った。
都会から来た田舎町は景色が良くユートピアだと思う、しかしそこに住まう人は都会こそ自分のユートピアだと思う。
私も自分のユートピアを常に探し求めていると感じることがあるが、実はユートピアは自分の心の持ちようで、今住まう場所であり、もしくはこれから行く土地であるかもしれないと感じた。