本って時間や場所を選ばないと思ってました。しかし、この本を読んでそれも必要な要素だということが分かりました。この本は、通勤電車の中で読むと、結構後の仕事がつらいです。

1歳ちょっとの息子を失った主人公セキネさんが前妻の娘とともに旅に出ます。しかし、前妻も余命いくばくもないガンに犯されています。失った命と消えいく命。葛藤が旅を通して描かれます。恐山、奥尻、オホーツク、与那国島、島原・・・誰でも必ず身近な人との別れが必ず来る。しかし、別れの言葉もなく、ある日突然別れなくてはならないとき、人はどこかに怒りをぶつけます。その傷は自分にもぶつけた相手にも残り、決して消えることはないのです。この本は傷を無理に消すことなく、そのままを受け入れお互いを理解しようと(それも無理やりでなく自然に)する時間をゆっくりと描かれています。

推理小説に疲れた時、こんな本を読んでみると時間がゆっくりなことに気づかされるのです。読んでいる間の時間はもちろん、読後にもどんと心に残る本です。

 

 

きみ去りしのち

重松清

文春文庫