作家ってやっぱりすごいと思う。この本を読んだとき、そう思いました。それは、まず題名。『利休にたずねよ』という題名から千利休のことだと想像するのですが、『利休にたずねよ』ですよ。何をたずねよ、というんでしょうか?その答えは、本を読んでも出てきません。読後にそれぞれが考えるのです。千利休といえば、不世出、当代きっての茶人、後世、秀吉から疎まれ、切腹させられたくらいにしか思っていませんでした。しかし、この本を読むと、利休が生身の人間として生を全うし、現代にも茶の侘び寂びだけでなく、美をも伝えたことがありありと、今風にいうと3Dとして蘇るのです。利休が本当に愛したものは誰か、何か?人間なのか、はたまたそれは違うのか。私は、様々な女性と関係を持ちながらも、利休が愛したのは、ひたすら美ではなかったかと思うのです。だから、私は、利休にたずねよ、とは、美については利休にたずねよ、と言っている気がしてなりません。2013年12月、利休に市川海老蔵で映画化されるようですが、結構、この配役は適していると思います。

あと、ひとつ。この本には様々なすばらしい日本語が登場します。例えば、「溌溂とした命の芽吹き」や「賞翫すべき美の源泉」「蕾の凛冽さ」・・・どれもこれも単なる命の芽吹きではなく、美の源泉ではないのです。そこに日本語の持つ意味が加味され、より私たちに鮮明に物語を立ち上がらせるのです。

 

 

利休にたずねよ

PHP文芸文庫

山本兼一 著