今年の4月に亡くなられた作家、渡辺淳一さんの作品。渡辺淳一さんといえば、日経新聞に連載され、映画&ドラマ化された話題作「失楽園」の作者として有名です。
私の中では、どうも受け付けられなくて今まで渡辺さんの作品は読んだことがありませんでした。しかし、新聞の書評を読んでいて、本作に興味を持ち、取り寄せました。
本作には、短編4編がおさめられています。どれも著者のはじめの方の作品とのことです。
「廃礦にて」は、ご自身の体験を書かれたのではないかと思う作品です。新人の整形外科医である有村が出張していたある炭鉱病院で体験した婦人科系の急患の若い女性の大手術。専門外のその大手術を担当し、絶望的かと思われたのだが、その女性は奇跡的に蘇る。恐ろしくもあるその生命力に底知れぬ恐怖と不気味さを感じた有村。作家となって廃坑となり廃墟となったその街を訪れるのだが・・・。
整形外科医であった著者が体験したと思われる文章が生生しく描かれています。しかし、そこには私が以前感じた「失楽園」のような失望感はありませんでした。医師ならではの文章が、私の読むスピードを速めました。
廃礦にて
渡辺淳一著
角川文庫
