母は冷静だった。
私の慌てっぷりがむしろ、彼女をそうさせたのかもしれない。
病院へ連絡を入れておくことの重要性、今ならば理解できる。
おかげで、車で病院についてすぐに救急外来に通されて検査をしてもらえた。
連絡していない場合、受診してもらえないこともあるからだ。父が転倒して頭をうった際には診てくれなかった。
レントゲン、血液検査、心電図という順番で検査を受けることになったのだが、心電図は診察してもらった救急外来に戻ってからだった。
心電図を受けようというところで、その日の当直だった整形外科の医師から一言。
「心筋梗塞の可能性があります」。
父は診察時点で「肩がこっているようで、胸の辺りが変だ」という風に言っていた。
車いすに座って検査を受けていく本人は蒼白い顔をしていながらも、いつものように調子良い返答をしていた。人を笑わす一言をふいに言う、父のキャラクターがその時も出ていた。
それは自分の不安を打ち消すためだったのか、私たちの不安をなくそうとしていたためなのか、今となっては分からない。
でも、間違いなく。
少し離れた場所で心電図をとられている父、そして医師からの一言を聞いた私と母は不安に飲み込まれそうになったはずだ。
心筋梗塞…ヘラヘラできるような状況じゃなかった。
「今からすぐに循環器の先生に来ていただきます。先生が来たら詳細は説明されますので、ひとまず外来の前でお待ちいただけますか」。
真っ暗な部屋で父を見た時から、何かしらは疑っていた。
思っていた通りとも言える重過ぎるパンチを、私はただただ喰らうしかなかった。
母さん、あなたはこの時からカウンターを狙っていたんですか?
父さんが倒れるかもしれない、その後のことも考えていたとしか思えないほど、あなたは冷静でした。
その冷静さが、私を救ってくれたことは言うまでもありません。