トム・フォードという天才
Tom Fordという男は本当にすごい。
去年彼が初監督した"A single man”を映画館で観た時には鳥肌が立った。
事前にそのレビューの高さは知っていたものの、予想以上だった。
トム・フォードは20代前半でChristopher Isherwood による同タイトルの小説を読み深く感銘を受け、主人公であるGeorgeに傾倒したと言う。
1962年のロサンゼルスを舞台に、愛するパートナーを失った大学教授の空虚感や生と死が描かれているこの映画、先日DVDが発売されていたのでもう一度観た。
2度目の今回は映像・コスチューム・セット・登場する男女・演出全てが映画にしては綺麗過ぎているとは思ったけれど(もちろんやりすぎて野暮になっていることはない)、彼の才能にはほとほと感心する。
映画はヴェネチア国際映画祭にノミネートされ主演のColin Firthはヴェネチアで男優賞を受賞、アカデミーの主演男優賞にもノミネートされた。
ファッションデザイナーとしての彼はもう何の説明もいらないと思うけれど、彼がディレクターに就任した1995年のGucciのコレクションのことは未だによく覚えている。
それまでのグッチといえば、海外出張に行ったファッションに全く興味のない父親がお土産にロゴ入りのバックを買ってくる、といったイメージのさえないブランドだった。
その時私はまだ高校生だったけど、ブルーやブラウンの細身のサテンのシャツやパンツなどのコレクション、ボタンを3つあけた着こなしやヘアメイクなど本当に格好よかった。
美しい黒いスーツに白いシャツのボタンを3つあけた着こなし(と胸毛、もちろん)にサングラスはトレードマーク。
もちろん写真でも美しいけれど、TVのインタビューなどに答える姿も非常に洗練されている。
単にゲイならではというだけでない独特の綺麗な英語。上品で知的な話し方。
穏やかで落ち着いているけれど決して高慢には見えず、それどころかとてもチャーミングですらある。
全て生まれもって備わったもののようにも見えるし、自分をどう見せるか、研究し尽くしてコントロールされた結果身についたもののようにも思える。
どちらにせよ、才能に溢れ美しく洗練された彼の放つオーラとパワーはすごい。
ファッションも映画もイメージを鮮明にビジュアル化してそれを形にするという点では同じだと言っていたけれど、それは何も映画やファッションに限らず彼の生き方にも共通している。
”そんなことをするのは無理だよ”という他人の言葉を信じたことはない、イメージを具体化してその実現に努めればどんなことでも出来ると言う彼の言葉は説得力がある。
自分はスピリチュアルな人間だと言う彼のインタビューを聞いていると、単に才能に溢れるだけでなく穏やかではあるけれど超越した凄みのようなものさえ感じてしまった。
来月で49歳(!)の彼に23年間連れ添う年上のパートナーがいることは有名だけれど、グッチを退任した後は精神的に不安定になった時もありミドルエイジクライシスも経験したという。
次の映画をつくるのが待ちきれないと言っていたけれど次回は彼の視点から見た不条理なこと、滑稽なもの、みっともないもの、格好悪いものなんかも見てみたい気がする。
シングルマンは昨年の東京国際映画祭でも上映されたようですが、今秋日本でも一般公開されるようです。