たかが1セント、されど1セント | 裸のニューヨーク

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ユー・ドント・ノウ・ニューヨーク・ザ・ウェイ・アイ・ドゥ...これは私のアンビバレントでパーソナルなニューヨーク・ストーリー。

 5月11日の毎日新聞によると、低所得者が多いことで知られるニューヨークのブロンクス地区の中華料理店が1セント硬貨(ペニー)の受け取りを拒否した事で波紋を呼んでいるという。これを読んで私は自分のニューヨーク時代を思い出した。

  ウェイトレスをしていた私の時給は確か1ドル台。週5日働いても大した額にはならない。頼りはチップなのである。ミッドタウンのハンバーガー屋なのでビジ ネスマンが多い。勘定が4ドルに満たなくとも1ドルのチップをくれる客も多く、11時から2時までのランチタイムで大体10ドル前後のチップを稼げる。初 日からキャッシュを持ち帰る事ができるのは万年金欠の私には大きな魅力だった。

 日本の料理店で働いていた時は、新入りは1ヶ月はチップ なしだったのだ。ウェイトレスの仕事は1週間もすれば慣れるし、私が受け持った客の中には「サービスが良かったからビッチチップを置いていく」と言ってく れた人もいたのだが、それは私のものにはならなかった。すれっからしのウェイトレスの中には客と言い合いになったりするようなサービスの悪い者もいたのだ が、勤務年数が長いというだけで、私がもらったチップもそういう手合いに流れて行ってしまうのだ。こうしたチップのプール制については日本的システム (チャイナタウンにもあったそうで、それが元でストライキが起こった事がある)の良い点を強調する店があるが、新入りにとってはたまったものではない。食 事方法にしても、出来上がった賄い料理を目の前にしてこちらがおなかをすかせて待っているのに、キッチンの人々が来ないうちは食事を始められないのであ る。若かった私にはこれは拷問のようだった。

 話がずれてしまったが、ハンバーガー屋で、チップに、1ペニーをためたビンを持ち込んでざ らりとテーブルにばらまいた中年女性客がいた。お金には違いないが、元々チップには小銭が多く、帰り際にレジ係と交換してもらうのだが、1ペニーが100 枚近くもあるのでは数えるだけでも時間を食う。
 私はその客に「ペニーなら要りません」と怒りを込めて断わったのを覚えている。数えるのが面倒だ からという理由よりも、いくらチップでも少しは感謝の念で支払って貰いたいのに、そうやって不要なペニーで支払うなんて、感謝の気持ちどころかウェイトレ スに対する冒涜のようにも取れたからである。

 最近、大量のペニー受け取りを嫌がる店が続出していると記事にあるが、日本のコンビニでも 確か50枚以上は拒否してもいいと聞いた。が、ブロンクスの客が出したのはたったの10枚。チキンを買えないという理不尽な目に遭った彼はさっそく地元の 上院議員に訴え、彼もまたさっそく「米国で商売をするなら、米国の通貨を受け取る義務がある」と、近く州議会に硬貨受け取り拒否を禁ずる州法案を提出する そうである。10枚ぽっちのペニーを拒否した中国人の店員が全面的に悪いと私は思うし、こういう事をすぐに是正しようとするアメリカという国の行政の迅速 さを羨ましいとも思う。