新・聊斎志異 お常 | 優李阿オフィシャルブログ

新・聊斎志異 お常

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新・聊斎志異 お常

新・聊斎志異 お常

手塚治虫の『新・聊斎志異』お常 の話を思い出しました。

闘病中の中学生当時、入退院を繰り返しながら、外にでられないことから本はずっと読んでいました。その中でもこの漫画は恐ろしいくらい自分と一致して、共感を得ながらも、振り返って今考えますと、それからの自分の人生に大きな影響を受けたように思います。

手塚治虫の漫画は大好きで、ほとんど読みました。理不尽な社会への批判、その中には弱い立場の者への愛がありました。

 

ストーリー

怪談というのはさりげなく語られれば語られるほど怖いものです。手塚治虫の“『新・聊斎志異』お常“の手本となった中国清代の怪談集『聊斎志異』、ちょうど落語の「マクラ」のように成田空港のお稲荷さんに関する薀蓄を披露、なかなか本題に入りません。そこにある日手塚治虫を訪ねてきた女性が、「ぜひこれだけがお耳に入れたくて…」と言っておもむろに語りだし、やっと主軸の物語が始まる、といった形になっています。
とある大学の農学研究室。ある外国からの依頼によって、そこでは秘密裏に猛毒化学兵器の研究が進められていました。そこに動物園から、「毛並みが良くないから」と手放されてきたメスの狐が実験動物としてやってきます。殺されていった動物たちの恨みが立ち込めていそうで、ただでさえ不気味な農学研究室。そこにやってきた、古来よりよく化けて人心を惑わすというキツネ。

F大病院の実験動物の世話は知恵の遅れたヒデと言う少年が行っていた。 ある時研究室に1匹の狐が連れてこられる。 ヒデはその狐に常と名を付けて可愛がっていた。
研究室はアメリカ軍から新型化学兵器の製造を依頼されていた。 動物実験はほぼ済み、残すのは人体実験だけだった。 彼らは大尉から1万ドル受け取りヒデを実験台にする事を決める。
その頃ヒデは狐が化けた女性と過ごしていた。 彼は彼女を自分の母親だと信じ込んでいた。 ある日彼女はヒデに急いで逃げろと告げる。 その翌日、荷物をまとめたヒデだったが、研究室でジュースを飲まされる。 実験は成功した。
しかし、大尉や研究員なども誰かに毒を飲まされる。それから収容されていた動物実験用の犬たちが放たれてみんなが脱走。 近くには狐の足跡があり、それ以来、狐である女は姿を消したのだった。
これが通り一遍の怪談ならば、化け狐が怖い、という話になりそうなものですが、そこは手塚治虫ならではの社会風刺のストーリー展開を見せます。実のところ、本当に恐ろしいのは化けも祟りもしない人間の大人たちだったりするところが、この作品のひねりの効いたところです。手塚治虫は軍隊には基本的に嫌悪感を抱いているんだと改めて思いました。 人間の女性に化けた狐が、手塚先生ならではの不思議な魅力を発揮しています。

人間の恐ろしさがここにもまた、ものの見事にかき表されています。

 

鬼は獣ではなく人の心の中に住むということ

解説

1971/05/23 「週刊少年キング」(少年画報社) 掲載